京都大学(京大)は1月27日、認知行動療法が重度のうつ病の場合でも、軽度のうつと同程度に効果があることを発見したと発表した。

同成果は、同大 医学研究科の古川壽亮 教授、同 田中司朗 准教授、Erica S. Weitz アムステルダム大学博士課程学生らの研究グループによるもの。詳細は英国王立精神医学会発行の学術誌「The British journal of Psychiatry」に掲載された。

認知行動療法は、ある出来事に対する身体の反応、どのように考えるかという認知、出来事に対して持つ感情、実際に起こる行動という人の反応の4つの側面の中で、本人が意識してある程度コントロールできる認知と行動に働きかける治療法で、うつ病のほか、パニック障害や生活パターンが原因となる生活習慣病への応用も試みられていることで知られる。

治療前のうつ病の重症度が治療法の効果へ与える影響を対象にした研究は従来、抗うつ薬の効果検証を目的として行われてきたため、認知行動療法とうつ病の重症度の関係に主眼を置いた研究は行われていなかった。そこで研究グループは今回、過去に行われた試験データを対象にメタ解析を行い、認知行動療法が有効成分を含まないプラセボ薬(偽薬)に比べどの程度の効果があるのかの調査を行った。

調査をした試験は、1989年から2006年までの間に実施され、対象被験者の平均年齢は40歳前後、一定の重症度がありうつ病と診断された509人と、それよりは比較的軽症の抑うつ状態である気分変調症と診断された46人の計555人を対象としたもの。調査の結果、元々のうつ病の重症度は認知行動療法とプラセボ薬によるうつ病の改善度の差にほぼ影響を与えないことが分かったという。

今回の成果について、研究グループでは、もともとの研究が今回検討したかった認知行動療法の治療効果を目的としてデザインされていないことや、対象者が併せて持っている障害に関するデータが無い点、取り上げた研究によって重症度の評価尺度が異なるといった限界はあるものの、認知行動療法がこれまで考えられていたよりも幅広いうつ病の治療に用いることができる可能性を示すものと説明するほか、治療効果の指標である治療必要数(Number Needed to Treat)に換算すると、重症のうつ病に対して認知行動療法は12となり、一般的に用いられる抗うつ薬(7~9)と比べて、患者本人の希望次第ではどちらの治療法も合理的な選択肢になりうる可能性が示されたとしている。

うつ病の重症度と、その後の改善度の比較 (出所:京都大学Webサイト)