決定! 「この野球マンガが現在進行形ですごい!」2017【4位~次点編】


      週刊野球太郎
    


 過去の名作マンガではなく、現在連載中の作品で、もっとも勢いのある野球マンガはいったいどの作品なのか!? 野球マンガ評論家・ツクイヨシヒサと、野球太郎ライターのオグマナオトがランキング形式で紹介する「この野球マンガがすごい!」。昨年に続いて2回目となる2017年度版、今回は4位~次点編。

◎4位:『ハートボール』(原秀則、脚本:風巻龍平/小学館「ビッグコミック増刊号」連載、既刊1巻)

【あらすじ】
大手食品メーカー・はっぴ~製菓で“干されていた”玉田直太郎。辞表を叩きつけに行ったその日に渡された辞令は、子会社であるプロ球団「横浜はっぴ~オーシャンズ」への異動だった。

【選定理由】
ツクイ 4位(3pt)/オグマ 4位(3pt)/計6pt

オグマ:今、出るべくして出たプロ野球ビジネス、球団経営について描いた作品です。モデルとしたはずの横浜DeNAが2016年に、初めてCSへの出場権を獲得し、観客動員数でも結果を出した、という意味でも、時代とリンクしていていいな、と。

ツクイ:球団経営側の野球ビジネスを描くマンガ、というアイデア自体は、考えたことのある作者や編集者はほかにも大勢いたと思うんですよ。でも、実際にやろうとしたら、取材やストーリー作りが意外と難しいはず。そこは長年、野球マンガを描き続け、若者の仕事マンガも手がけられてきた原先生だからこそ描けた作品なのかな、と。スーツ姿とユニフォーム姿、両方の若者をバランスよく描ききれる人って、あまり多くないと思うんですよ。むしろ原先生のキャリアを振り返ると、この作品に向かってきたという印象すらあります。

オグマ:あぁ、確かに。『SOMEDAY』っぽさというか。

ツクイ:『SOMEDAY』や『いつでも夢を』、それこそ『冬物語』の頃から続く若者たちの物語の系譜と、野球マンガとしての系譜。その両方を魅力的に描けるという、希有な存在ですからね。どちらに寄り過ぎても、嘘くさくなったり、大げさになったりするわけで。『ハートボール』に唯一の欠点があるとすれば、掲載誌になかなか出会えないことです(笑)。

オグマ:本当にそう。原ファンや野球マンガファンでも、知らない人が結構いるかもしれないですよね。でも今、野球ビジネスの話題は『東洋経済』や『ダイヤモンド』といった経済誌でもよく扱われるテーマなわけで、そこをちゃんと描く作品はもっと認められるべきだと思います。


◎5位:『群青にサイレン』(桃栗みかん/集英社「月刊YOU」連載、既刊3巻)

【あらすじ】
修二と空はイトコ同士。かつて空のせいで野球をやめた修二は、高校の入学式で空と再会。体の小さな空を見て、「今なら勝てる」と思った修二は野球部へ入部することに……。

【選定理由】
ツクイ 圏外(0pt)/オグマ 3位(5pt)/計5pt

オグマ:『いちご100%』などで知られる河下水希先生が、あえて「桃栗みかん」という昔のペンネームに戻して勝負した野球マンガです。シンプルなまでに“バッテリーの関係性”に焦点を当てた作品。バッテリーといえば友情、尊敬、思いやり、といった固定観念にとらわれがちですが、『群青にサイレン』の場合、むしろ呪いにも似た復讐の念というか。

ツクイ:だね、オトコの劣等感と嫉妬心。こじらせ男子の主人公・修二が持つ、従兄弟・空へのわだかまりを解くための野球マンガという、ね。正直、「すごいところにボールを投げ込むな!」と思いました(笑)。

オグマ:それでいて野球描写もしっかりしているのが魅力です。何よりも驚かされるのが、ここまで野球にこだわった作品を女性マンガ誌で描いているということ。

ツクイ:キャッチャーのプロテクターとか、本当に美しく描き込まれていますよね。もちろん桃栗先生の絵が巧いのはわかっていましたけど、野球シーンもここまで描けるのかという驚きはありました。たぶん女性マンガ誌に掲載されたなかで、史上もっとも野球描写が巧い作品なんじゃないかな。

オグマ:あと、こんなにモノローグが多い野球マンガ作品もないですよね。

ツクイ:まあ基本的には、ツンデレ修二くんの空への葛藤を愛でるマンガですからね(笑)。「本当は好きなんだろ!?」からの関係性というか。そういう意味では、終着点は見えているわけですよ。それでも、1巻より2巻のほうが面白いし、2巻より3巻のほうが面白い。ただ、作品の目的が野球に勝つことじゃないので、クライマックスへと落とし込んでいくタイミングが難しそうですよね。

◎次点:『WILD PITCH!!!』(中原裕、原案協力:加藤潔/小学館「ビッグコミックスピリッツ」連載、既刊3巻)

【あらすじ】
ドラフト指名漏れの屈辱を味わった城戸拓馬は野球を諦めきれず、独立リーグで現役を続ける道を選んだ。プロとは異なる選手個々の力、モチベーションのなか、拓馬はどんなピッチングを見せるのか?

【選定理由】
オグマ:『ラストイニング』の中原先生が選んだ次の舞台は“独立リーグ”でした。野球マンガでは意外と描かれてなかった領域ですよね。

ツクイ:ちょうど1年前に始まった作品なんですけど、当初はストーリーがどう進んでいくのかが読めない、評価の難しいマンガでした。独立リーグというニッチな分野を選んだことで、尻すぼみになっていく可能性もあったと思うんです。しかし、ここにきて“独立リーグの先”が見えてきたことで俄然、面白くなってきました。やっぱり中原先生は、野球シーンを描かせたら当代随一のアーティストですから。野球マンガには迫力も独創力も必要だと思いますけど、中原先生の絵には加えて「このフォームでこうバットに当たったらそこへ飛ぶ」といった説得力がある。同じ打者でも、打った球種やボールのとらえ方によって、フォームが描き分けられてますから。さすがですよ。

オグマ:作中ではプロの球団エクスパンションもテーマのひとつ。現実世界でも話題にのぼるテーマをどう描いていくのか? という期待値もあります。

ツクイ:たとえば『MAJOR』の吾郎がいち早く高卒で渡米していたように、マンガの世界に現実が追いついてくる、という話はよくあることですからね。今後の展開が楽しみです。


◎次点:『江川と西本』(作:森高夕次、画:星野泰視/小学館「ビッグコミックスペリオール」隔号連載、既刊5巻)

【あらすじ】
80年代に多くの白星を重ねた巨人のエース、“怪物”江川と“雑草”西本。二人のライバル関係は野球界における“エースの定義”沢村賞を変えた……。その知られざる真実を高校時代の因縁から紐解いていく。

【選考理由】
オグマ:今この時代に、このテーマ(江川卓)を描いている、という面白さ。ちょうど「空白の1日」に入ったからかもしれないですけど、すこぶる面白いですね。

ツクイ:最近だと、長嶋(茂雄)監督を“いい人”じゃない側面からも描いているところもいいし、張本(勲)さんとか当時の選手たちをモブ扱いせず、隅々まできちんと描こうとしているところに好感が持てます。

オグマ:『江川と西本』といいつつ、ちゃんと“あの時代”全体を描いていて、「空白の1日」にしても、小林繁サイドからも綿密に描くマニアックさ。この作品を推したいのもそこで、70年代後半の野球界の、意外と語られていないエピソードを丹念に描いてくれる。この先、王(貞治)さんの引退と長嶋監督の退任がまとめてやってくる1980年も描かれるはずで、そこで選手たちがどんな葛藤を抱いたか、にも踏み込んでくれると期待しています。

ツクイ:まあ個人的には、『哲也』の麻雀シーンへのオマージュが、ツボでしたけどね。「単なる作者と担当のワルふざけじゃん!」って(笑)。


文=オグマナオト


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