ジョージア工科大学の研究チームは、酸化物ナノワイヤを簡易かつ低コストで作製する新手法を開発した。2種類の金属からなる粉末状の合金材料から1次元のナノワイヤを直接生成できる。

生成プロセスは常温常圧下で進み、触媒や有害化学物質の使用は使わなくてよい。化学的気相成長法(CVD)のような高コストな処理も不要であるという。研究論文は、科学誌「Science」に掲載された。

ナノワイヤの材料であるリチウム-アルミニウム合金を形成するための「るつぼ」(出所:ジョージア工科大学)

今回開発された手法では、粉末状のバルク材料を溶媒といっしょに容器の中に入れておくだけで、数時間後にはナノワイヤを得ることができるという。研究チームは、この手法を用いて、リチウム-マグネシウム合金またはリチウム-アルミニウム合金からなる二金属粉末から酸化物ナノワイヤを生成できたと報告している。溶媒としては、アルコール溶媒を含むさまざまな種類のものが使われている。

金属材料は、反応性の高い金属(リチウムなど)と反応性の低い金属を組み合わせて用いる。研究チームの説明によれば、化学反応が起こる部位の界面エネルギーを最小化することが同手法のポイントとなる。反応面でリチウムが溶媒に溶け出し、アルミニウム(またはマグネシウム)の微小な核が形成される。反応プロセスが進んでいく間も核の直径が維持されるため、1次元のナノワイヤが生成される。一定の温度・圧力の下で、体積変化、界面エネルギー、反応物の反応性および溶解度を制御することによって、反応条件を調整することができ、望む寸法のナノワイヤを生成できる。生成されたナノワイヤを空気中で加熱処理することで、金属酸化物(セラミック)ナノワイヤを得る。

今回報告されているのはリチウム-マグネシウム合金またはリチウム-アルミニウム合金を出発材料としたケースだが、他の材料を使った実験も進んでいるという。

セラミックナノワイヤの用途としては、リチウムイオン電池用セパレータ材料が有望視されている。現行のリチウムイオン電池で正極と負極を隔てるセパレータとして使用されている高分子膜は、耐熱性が低く、電池の欠陥・故障時の短絡電流などによって生じる高温に耐えられないという問題があり、電池の発火・爆発の原因となっている。

この問題の解決策として、ナノワイヤを利用したセパレータがある。繊維状のセラミックナノワイヤを使った紙のような膜を作ることで、セパレータの強度と熱安定性が向上し、リチウムイオン電池の安全性を高めることができると考えられている。バルクのセラミック材料と違って、フレキシブルな膜にできるという利点もある。また、ナノワイヤでできた膜は多孔質であるため、電池の電解液が浸潤しやすいという特徴も期待できる。

しかし、ナノワイヤの作製にはコストがかかるため、これまで電池材料としての実用化はあまり進んでいなかった。今回開発された酸化物ナノワイヤの作製技術をさらに進め、セラミックセパレータの低コスト量産が確立されれば、安全性の高いリチウムイオン電池の商用化が可能になると期待できる。

さらに酸化物ナノワイヤは、発電、補助触媒、センサ、フレキシブルエレクトロニクス、軽量構造複合材料、建築材料、絶縁材料など、電池セパレータ以外にも幅広い用途が想定されている。