パデュー大学の研究チームは、酸化ガリウム(β-Ga2O3)半導体を用いた高性能パワートランジスタの動作実証に成功したと発表した。

酸化ガリウムは、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった既存のワイドギャップ半導体を上回る高電圧・大電流での動作が可能であり、次世代のパワーデバイス用半導体として期待されている。研究成果は、米国電気電子学会(IEEE)の論文誌「IEEE Electron Device Letters」に掲載された。

バンドギャップが大きなワイドギャップ半導体は、高電圧・大電流でのスイッチング動作に適しており、鉄道や電気自動車、重電設備などでの電力制御に利用されている。代表的なワイドギャップ半導体であるSiCのバンドギャップは室温で3.3eV(電子ボルト)、GaNは3.4eVであるが、酸化ガリウムのバンドギャップは、これらよりもさらに大きく4.6~4.9eVという値になる。このため、次世代のウルトラワイドギャップ半導体として研究開発が進んでいる。

今回のデバイスでは、粘着テープを使って単結晶材料から酸化ガリウム薄膜を剥離する手法を用いた。これにより、従来のエピタキシャル成長法による薄膜形成と比べるて作製コストを低く抑えた。エピ成長させた酸化ガリウム基板は現状、1cm×1.5cmサイズで1個約6000ドルと非常に高価だが、テープ剥離法を使うことでこれを大幅に引き下げることができるという。

テープ剥離法による薄膜形成で、表面粗さ0.3nmという平滑な表面状態を得ることができた。これがトランジスタ性能の向上につながったと考えられている。

酸化ガリウムトランジスタのデバイス構造図と原子間力顕微鏡(AFM)による半導体表面像(出所:パデュー大学)

絶縁体層の二酸化ケイ素(SiO2)上に酸化ガリウム層を形成した電界効果トランジスタ(FET)を作製し、デバイス性能の評価を行った。論文によると、ドレイン電流の単位ミリメートルあたりの電流密度は、電流-電圧特性のモードの違いによって、600mA/mm(デプレッションモード)または450mA/mm(エンハンスメントモード)となった。いずれもこれまでに報告されている酸化ガリウムトランジスタに比べて1桁近く高い。

トランジスタのしきい値電圧は酸化ガリウム層の膜厚を変えることによって調整できる。エンハンスメントモードのFETも、酸化ガリウム層の膜厚を薄くすることによって簡単に実現することができるという(エンハンスメントモードは、ソース・ドレイン間電圧をゼロにしたときにドレイン電流もゼロになるモード。主にスイッチング用途で要求される電流-電圧特性)。

作製されたトランジスタは、伝達特性のヒステリシスが無視できる程度に小さくなっており、ドレイン電流のオンオフ比も1010と高いため、安定した動作が期待できる。また、SiO2層を300nm厚としたときには、140mV/decという低い値のサブスレッショルド係数が見られた。サブスレッショルド係数が低いということは、電流の立ち上がりが早く、スイッチング特性が良好であることを意味する。

エンハンスメントモードのFETは、ソース-ドレイン間距離0.9μmとしたとき、降伏電圧185V、平均電界強度2MV/cmであった。次世代のパワーデバイスとして有望な性能を示したと言える。