理化学研究所(理研)は1月10日、マウスを用いた実験にて「α2,6シアル酸」と呼ばれる糖を持つ糖鎖が肥満を抑えることを発見したと発表した。

同成果は、理研 グローバル研究クラスタ疾患糖鎖研究チームの蕪木智子客員研究員、木塚康彦研究員、北爪しのぶ副チームリーダー、谷口直之チームリーダーらによるもの。詳細は米国の科学雑誌「The Journal of Biological Chemistry」に掲載された。

肥満は糖尿病や高血圧、動脈硬化といった生活習慣病の発症リスクを高めることが知られている。その原因の1つとして、肥満に伴って肥大化・増殖した脂肪細胞の機能異常が考えられているが、脂肪細胞の肥大化や増殖のメカニズムは良く分かっていなかった。一方で、グルコースなどの糖が鎖状につながってタンパク質などに結合した糖鎖は、がんや糖尿病、アルツハイマー病などの疾患の原因の1つとなることが分かっていたが、脂肪細胞の肥大化や増殖の過程で、どの糖鎖がどのような役割を果たしているかも不明となっていたことから、研究チームは今回、肥満における糖鎖の役割の解明を行ったという。

具体的には、マウスに高脂肪食を与えて肥満を誘発し、そのとき脂肪細胞に起こる糖鎖の変化の解析を実施。その結果、ST6GAL1と呼ばれる酵素が作るα2,6シアル酸と呼ばれる糖が、脂肪の肥大化や肥満と関連性があることが示されたとする。さらに、詳細な調査を行ったところ、ST6GAL1が作るα2,6シアル酸が、脂肪細胞の接着分子とも呼ばれるタンパク質であるインテグリンβ1の働きを調節することで、脂肪の増殖を抑えていることが分かったという。

なお、研究チームによると、実際にヒトの遺伝子解析でも、ST6GAL1が肥満や糖尿病と関係があることが、最近、報告されているとのことで、今後、肥満に関連する糖尿病、動脈硬化などの疾患の治療を考える上で、α2,6シアル酸を標的にした新たな治療法の開発が期待できるとしている。

左がタンパク質に結合している糖鎖の典型的な構造の一例。糖転移酵素ST6GAL1の作用によって、糖鎖の末端のガラクトースにα2,6シアル酸が転移される。右が通常の餌で飼育したマウス(正常マウス)と、高脂肪の餌で飼育して肥満にさせたマウスの脂肪組織の染色像。肥満マウスでは脂肪組織のα2,6シアル酸が減少していることが見て取れる (画像提供:理化学研究所)