年始は大型の特別ドラマが多い時期だが、2017年の目玉はフジテレビ系で1月3日(21:00~)に放送される嵐・櫻井翔主演の『君に捧げるエンブレム』だろう。実在する元Jリーガーで、元パラリンピック選手の京谷和幸さんをモデルにしたストーリーだけに、骨太かつドラマチックな作品となった。

主なあらすじは、「Jリーガーの鷹匠和也(櫻井)は日本代表に選ばれたほか、恋人・仲川未希(長澤まさみ)との結婚を控えるなど順風満帆。しかし、ある日事故にあって歩けない体となり、車いすでの生活を余儀なくされる。未希のサポートを受けながら懸命なリハビリに励み、どん底の時期を抜け出した和也が出会ったのは車いすバスケ。未希と自分に誇れる人生を歩むために、パラリンピック日本代表を目指す新たな挑戦がはじまる」というもの。

長澤まさみ

モデルとなった京谷和幸さん・陽子さん夫妻

「新年早々から重いドラマでは?」と思うかもしれないが、重さ以上に感じるのはエネルギーの強さ。「車いすバスケや障がいを扱う」というハードルの高い挑戦だけに、キャストとスタッフの気合が、映像のそこかしこから感じられる。

実際、増本淳プロデューサーが、「『障がいを売りものに視聴者の涙を誘う』、そんな番組ではありません。車いすバスケで自分の限界に挑戦する選手は、アスリートとしてかっこいい。それを支える最愛の人や、家族がこれまたかっこいい」と語っているように、ポジティブな生き方が見られる作品なのだ。

『家族ゲーム』を思い出す力強さ

2年ぶりのドラマ出演にも関わらず難役に挑む櫻井の気合は相当なもの。『NEWS ZERO』(日本テレビ系)で障がい者スポーツの取材経験があるだけに、車いすバスケの練習はもちろん、アスリートらしいメンタル面での役作りにも励む姿勢が伝わってくる。

前半のハイライトは、和也が車いすバスケに出会うシーン。その瞳の輝きは、俳優としてやりがいのある役に出会えた櫻井そのものにも見える。その後、取りつかれるように車いすバスケにのめり込む和也。そんな櫻井の姿を見て、最後に出演した連ドラ『家族ゲーム』(フジ系)を思い出した。櫻井が演じた吉本荒野は、得体のしれない生命力に満ちた男だったが、今作の和也も下半身が動かないにも関わらず、体の奥底から湧き上がるようなパワーを感じる。

もちろん、次々に車いすがぶつかり合い、転倒してコートに投げ出されるシーンが続出する車いすバスケも見どころ十分。その激しさは、バスケというより、鍛え上げた肉体がぶつかり合う格闘技というイメージに近く、見ている側をエキサイトさせる。

また、櫻井本人が「挫折感や泥臭さ、夫婦の深い愛情などが見られる人間ドラマ」とコメントしているように、和也の心情と未希との関係を追うのも見どころの1つ。単に車いすバスケの世界を描いた作品ではなく、ヒューマンラブストーリーとしての側面も強いため、家族そろっての視聴にも向いている。

櫻井翔と香川照之の"絆"に注目

(上段左から) 市原隼人、香川照之、安藤政信 / (下段左から) 田中哲司、小林薫、倍賞美津子、かたせ梨乃

そして、車いすバスケや夫婦愛と同様に注目してほしいのは、櫻井が日本屈指の名優たちと向き合うシーン。櫻井と長澤を盛り立てるべく、助演には新春特別ドラマにふさわしい豪華な顔ぶれがそろった。

和也を車いすバスケの世界に誘う鶴田仁志に田中哲司、結婚に反対する未希の父・仲川明生に小林薫、和也の未来を心配する母・鷹匠和歌に倍賞美津子、チームのエースだが転移性のがんを患う向井大隼に市原隼人、ライバルで車いすバスケ日本代表のスター・神村練に安藤政信、高校生時代から和也を追い続けるスポーツ紙記者・福本廣太郎に香川照之がキャスティングされている。

田中、小林、倍賞、市原、安藤、香川と1対1で向き合う櫻井がどんな演技を見せ、どんな化学反応を起こすのか。熱いキャラクターを演じる櫻井が、冷静なキャラクターを演じる名優たちと対峙するシーンは、隠れた見せ場になっている。

中でも必見なのは、和也とスポーツ紙記者・福本が誰もいないコートで言葉を交わすシーン。悩む和也に強い言葉を浴びせる福本の姿を見て、「櫻井と香川の間に絆が生まれているのではないか」と思わせられた。

最後のモノローグは感動必至

サッカー選手として活躍するシーンから、クライマックスのシドニー・パラリンピックに至る道のりの長さと濃さは、1クールの連ドラにできるほどのものがある。それを1夜の放送に凝縮したことで、次々に重要なシーンが訪れ、「アッと言う間に見終えてしまった」という印象が強い。

その余韻を感動的なものにしているのは、和也が未希を思って語る最後のモノローグ。『君に捧げるエンブレム』というタイトルの意味が明かされ、温かい気持ちになれる。

リオ・パラリンピックやBリーグ開幕の熱気が残る今だからこそ、車いすバスケ目当てに見るもよし。失意のどん底から立ち上がる男の人間ドラマを期待するもよし。夫婦と家族の愛情に焦点を絞って見るもよし。さまざまな見方ができる上に、新年に前向きな一歩を踏み出せるような、未来への希望に満ちた作品だ。

完成披露試写会の会場に展示された劇中のユニフォームや車いす

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。