12月19~20日の金融政策決定会合で、日銀は景気判断をやや上方修正する一方、金融政策の現状維持を決定した。9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にのっとって、長期金利をゼロ%近辺に維持する方針を堅持、また年間80兆円をメドに国債購入を継続することとした。

米国主導で世界的に長期金利が上昇傾向にあるため、日銀が長期金利の目標を引き上げるのではないか、あるいは上昇を容認するのではないかとの見方もあった。しかし、会合後の会見で、黒田総裁は、「長期金利の目標引き上げを具体的に議論するのは時期尚早」と、そうした見方を切り捨てた。

為替相場に関しては、「現時点で円安が行き過ぎて問題になるとの見通しは持っていない」と円安容認姿勢を鮮明にした。そのうえで、「(今は)円安というよりドル高」と明言した。

米大統領選挙の投票日だった11月8日以降(12月21日まで)、ブルームバーグが集計する主要32通貨をみると、ドルはロシアルーブルを除く全ての通貨に対して上昇した。トランプ氏の当選を受けて、景気が良くなる、その結果としてFRBの利上げペースが速まるとの観測が背景にある。ただ一方で、同期間に円は全ての通貨に対して下落した。その意味では「ドル高」かつ「円安」だ。

もっとも、ドル円は昨年6月に125.86円で13年ぶりの高値をつけており、現在はそこから約6%低い水準にある。つまり「円高」だ。一方で、同じ期間にドルの実効レートは約7%上昇しているので「ドル高」だ。

黒田総裁の「円安というよりドル高」というのは、この辺りを指しているかもしれない。この黒田発言の真意は、「日銀の金融緩和が(過度な)円安を招いているわけではない。したがって、日銀が金融緩和を縮小するなど、何らかの対応をする必要もない」ということではないか。

ただ一方で、ドル実効レートは足元で14年ぶりの高水準に達している。米企業の対外競争力を弱める可能性があることから、米国から不満が出ても不思議ではない。現在は、政権の移行期にあたっており、いわば「司令塔不在」とも言える状況だ。しかし、来年1月20日にトランプ政権が正式に始動する。その時になって、「ドル高」に対するけん制が始まるかもしれない。

この点に関して、93年1月に誕生したクリントン政権が想起される。当時は日米貿易摩擦のただ中で、クリントン政権は露骨な円高誘導を行った。当時の財務長官の名を冠した「ベンツェン・シーリング(許容できるドル円の上限)」という言葉もあったほどだ。

「強いドルは国益」と唱えるルービン財務長官が登場して、クリントン政権がドル高路線に舵を切ったのは2年後のことだった。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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