「自分の幸せ考えるのも忘れずに」子どもたちが教えてくれた、社会課題解決に大切なこと(谷 明洋)


30人の子どもたちが、地球の課題と向き合い、未来都市の暮らしや仕事を考えた、全5日間のワークショップの最終日。


「自分の幸せを考えるのも、その調子で、忘れずにね」


私の口から自然と出てきた言葉は、子どもたちへのメッセージというよりも、子どもたちの姿に大人の方が教えられた、大切なことでした。




【未来の社会課題を小学生が考えたなら】

2016年7月下旬、「未来の"くらしやしごと"を創りだそう」をテーマに、「サス学」アカデミー(三井物産株式会社主催)が開催されました。サス学のサスは「サスティナブル(持続可能な)」の意味です。30人の小学4~6年生が、「メガシティ」「地方都市」「途上国の都市」「砂漠の都市」「宇宙都市」など課題を抱える未来都市に住む想定で5つのチームを結成。ロボットや社会貢献活動による課題解決を考え、CM動画や広報紙をつくってその都市の魅力をPRしました。

未来館で実施したのは、2日目の「未来の保険づくり」と「未来の社会貢献活動づくり」。常設展示「100億人でサバイバル」の見学を通じて自分たちの未来都市で起こり得る問題や災害を想像し、保険で備えるべきことや、取るべき対策を考えました。

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「100億人でサバイバル」の見学。撮影:朝日新聞社


私は展示を説明した後でワークを見守り、最終日の発表会にも呼んでいただきました。冒頭の「自分の幸せを考えるのも、忘れずに」を伝えたのは、発表会後の講評でのこと。仲間と一緒にアイデアを考える姿も、出てきたアイデアも、大人の想定を超える楽しいものばかりだったからです。



【アイデアの根底に感じたこと】

たとえば「途上国の都市」は、貧困と感染症を改善する狙いで「衛生的に堆肥をつくり、お金も食糧もない人が畑をつくった時に支給する」という"保険"を考えました。

「宇宙都市」チームの「スペース・スマイル・プロジェクト」は、宇宙人とのトラブルやケンカを避けるために「にらめっこ」を普及して、みんなを笑顔にするという社会貢献活動。

「地方都市」チームは若者を呼び込むロボットを導入して少子高齢化という課題を解決した上で、効率だけでなく人間性も大事にするために、伝統的なお酒づくりや花火を楽しむお祭りのプロジェクトを定着させる構想まで膨らませました。

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思い描いた未来都市について発表する子どもたち。撮影:朝日新聞社



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町の魅力を伝える広報紙(「地方都市」チーム)。
「しゃいめんそ~」は「ようこそ」を意味する架空の方言だそうです。



貧困や少子高齢化といったリアル(宇宙都市はちょっと遠い未来かもしれませんが)な課題に対し、鋭い着眼点や自由な発想から生まれた数々のアイデア。実現が難しそうなものも多かったのは事実です。でも、ほとんどのアイデアに共通していたことがあります。


それは、「幸せ」や「笑顔」「楽しさ」をベースに考えられているということ。


ただ課題を解決するだけでなく、未来の都市で取り組む自分自身や仲間も、その成果を受ける未来都市の人たちも、みんなが笑顔になれそうでした。だからこそ、親御さんやスタッフたちの深い共感を呼んだのだと思います。



「社会課題の解決は目的ではなく、自分を含めたみんなが幸せになるためのものなんだ」



子どもたちがそれを体現して、教えてくれているようでした。



【課題解決は、幸せのお裾分け】

私は、その半年ほど前に聞いた話を思い出していました。

ことしの1月、個人的に参加した「地域おこし」に関する社会人スクールで、山形県の朝日町を訪ねた時のこと。いわゆる"ゆるキャラ"の着ぐるみで「地域づくり」に取り組んでいる佐藤恒平さんに聞いた考え方です。


山間の町に移住してきた佐藤さんが目指したのは、「地域おこし」そのものより、「地域おこしがしやすい地域づくり」。少子高齢化という現実の中、地域のいろんな人たちが主体的に楽しく、地域活性化の活動に参加していくことを狙いました。

佐藤さんがデザインしたのは、無個性で主張がないウサギの着ぐるみ。あえて無個性にすることで、様々なアイデアを挟む余地をつくったのです。地域の人は地域PRにつながるアイデアを気軽に提案でき、佐藤さんが形にする。その楽しさが関わる人たちを増やし、さまざまな企画が実現しました。王道ではないが、一人から始められる手軽な地域振興策として高く評価され、「平成27年度ふるさとづくり大賞」の総務大臣賞や、「第6回協働まちづくり表彰」の優秀賞などを受けました。

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朝日町のご当地キャラ「桃色ウサヒ」について語る佐藤さん。写真提供:まよひが企画



そんな活動の根底には、次のような考え方がありました。



「地域づくりで大切なことはまず自分自身が、地域の中で余裕と、楽しさや幸せを感じること。そして、その余裕の中で地域の人のことを考えて、誰かと幸せを分け合っていく。その結果が良い地域になっていくんじゃないかと思っています」



私はそれまで「移住しての地域おこし」に対し、「使命感」「覚悟」「地域課題解決」「役立つ」などを強くイメージしていました。「確かにそれもあるけれど、もっと根源的なところを大切にしたいな」。そんな思いが半年の後、「サス学」の子どもたちの姿と重なってよみがえってきたのです。



【個人と地球の「幸せ」を重ねるには?】

未来館は私たち人類が地球で幸せに生きる未来を、科学の視点から考え、語り合う場。それは、少子高齢化や貧困などに加え、環境と経済の両立や、気候変動などといった地球規模の社会課題と向き合うことを意味します。


ただ私たちは、目の前に仕事や課題があるときに、自分自身の「幸せ」や「楽しさ」を忘れてしまうことがあります。時に頑張りすぎてしまったり、自分よりも全体のプラスに働くことを優先しすぎたり。特に「社会」「地球」のスケールは、「わたし」の気持ちを抑えてしまうほど大きいものです。

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地球の未来を考え、語り合う時に...




でも子どもたちが体現したように、みんなの幸せを目指すのならば。


大きな課題と向き合う時こそ、「自分の気持ち」も忘れないようにしたい。


課題をただ解決するよりも、もしかすると難しいかもしれないけれど。


「個人」と「社会」や「地球」の幸せの重ね方を、いろんな人たちと学び合い、深めたい。



漠然としていて、すみません。


夏休みの子どもたちに大切なことを教えてもらってから数ヶ月、たまにぼんやりと、そんなことを考えています。



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関連サイト

「サス学」について
https://susgak.com/

三井物産「サス学」アカデミー2016のきろく
http://www.mitsui.com/jp/ja/csr/contribution/education/sasugaku/index.html


「桃色ウサヒ」について
【活動紹介動画】ウサヒがまちにやってきた
https://www.youtube.com/watch?v=roGRfRlA00o&t=104s

ソトコト・インタビュー
http://www.sotokoto.net/jp/interview/?id=71



Author
執筆: 谷 明洋(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
地域を伝える新聞記者から、科学を伝える科学コミュニケーターへ。 旅先で垂直に昇るオリオンを見て、「丸い地球の、赤道近くにいるんだな」。ハモる和音の周波数を学び、「だからドミソって気持ちよいのか」。小さな港町のかつお節工場を訪ね、「職人技と発酵のコラボが生み出した日本の宝だ」。いちいち感動します。 幅広い好奇心と「伝える」経験でこの先、ひとりの人として何ができるのか。 人に会い、場を訪ねながら、探求しています。

本記事は「日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ」から提供を受けております。
著作権は提供各社に帰属します。


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