横浜市立大学(横市大)などは12月6日、トラウマ記憶を光操作により消去する技術の開発に成功したと発表した。

同成果は、横浜市立大学大学院医学研究科生理学 高橋琢哉教授、竹本研助教、東京大学先端科学技術研究センター 浜窪隆雄教授、大阪大学産業科学研究所 永井健治教授らの研究グループによるもので、12月5日付けの英国科学誌「Nature Biotechnology」に掲載された。

事故や災害における恐怖体験や対人関係のトラブルといった社会的関係のストレスなど、嫌な記憶は強く形成されてしまうとトラウマとなり、対人恐怖症等の社会性障害を引き起こす。

同グループは、以前げっ歯類を用いた研究で、ラットが特定の場所に入った時に電気ショックを与えるとその場所に近づかなくなるが、その恐怖記憶が形成される際に、グルタミン酸受容体のひとつであるAMPA受容体が、海馬のある領域において形成されるシナプスに移行し、これが恐怖記憶形成に必要であることを見出していた。

今回、同研究グループは、光に反応して活性酸素を発生する光増感物質を抗体などに吸着させ、抗体が標的分子に結合した際に光を当てることによりその標的タンパク質を活性酸素により不活性化する技術「CALI」を用いて、トラウマ記憶形成の過程でシナプスに移行したAMPA受容体を破壊することにより、トラウマ記憶を消去することに成功した。

同研究グループは、今回の成果について、記憶形成のメカニズム解明、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの心の傷に起因した社会性障害などの精神障害をコントロールする新規治療法開発の糸口になることが期待されると説明している。

(左)トラウマ記憶の成立に際し、AMPA受容体のシナプス移行が海馬において起きる (右)トラウマ記憶を仲介しているAMPA受容体を光操作により選択的に破壊することによりトラウマ記憶を消去する