東北大学は11月28日、低酸素トレーニングの効果をマウスを使用して科学的に立証したと発表した。

同成果は、東北大学大学院医学系研究科 布宮亜樹日本学術振興会特別研究員、同医工学研究科 申俊哲研究員(研究当時、現在はテンプル大学)、永富良一教授らの研究グループによるもので、7月25日付けの欧州生理学会誌「Acta Physiologica」電子版に掲載された。

身体が低酸素環境に暴露されると、生体内では血管新生や赤血球産生といった低酸素応答と呼ばれる一連の生体防御反応が起きる。スポーツ医科学の分野では、これらの生理応答が酸素運搬や酸素取り込みを向上させ、持久性トレーニングの効果を増強させるのではないかと考えられ、高地トレーニングなどの低酸素トレーニングとして注目されてきた。しかし、低酸素トレーニングや高地トレーニングの効果を検証した研究は、ヒトを対象としたものがほとんどであるため、プラセボ効果などの心理的影響を排除することが難しく、議論を困難にしていた。

一方、生体内酸素センサとして知られるプロリン水酸化酵素2(PHD2)というタンパク質が、低酸素応答のオン・オフを切り替えることが知られている。PHD2は低酸素環境下で活性を失う特性があり、PHD2の働きが弱くなることで低酸素応答が亢進する。

そこで、同研究グループは今回、Phd2遺伝子を欠損することで低酸素応答が恒常的に誘導されるマウス(Phd2欠損マウス)を用い、低酸素応答が持久性トレーニング効果を向上させるかを検証。この結果、Phd2欠損マウスでは、より高いトレーニング効果が得られることが明らかになり、低酸素応答の誘導により持久性トレーニングの効果が向上することが示された。

また、Phd2遺伝子を欠損することで、血液中の血球の体積の割合を示すヘマトクリット値が上昇し、骨格筋における血管新生も観察された。しかし、それだけでは持久性運動能力が向上することはなく、トレーニングを行うことによってはじめて、持久性運動に有利な骨格筋特性を獲得し、それが持久性運動能力の増強に寄与することが明らかになった。

同研究グループは今回の成果について、今後のスポーツ医学分野における低酸素トレーニングのメカニズムの理解、またトレーニングプログラムの作成の一助となることを期待しているとコメントしている。

持久性運動能力テストの結果から算出したトレーニング効果。持久性運動能力テストはマウス用のトレッドミル(ランニングマシン)を使用し、どれくらい長く走行を続けられるかをテストした。対照マウス、Phd2欠損マウスそれぞれについて、トレーニングを行う前とトレーニングを行った後の持続走行時間の差を算出した結果、Phd2欠損マウスでは対照マウスに比べて約1.57倍のトレーニング効果が得られた