大阪大学(阪大)などは11月11日、これまでにない新しい設計原理の自己修復材料を開発したと発表した。

同成果は、大阪大学大学院理学研究科基礎理学プロジェクト研究センター 原田明特任教授らの研究グループによるもので、11月10日付けの米国科学誌「Chem」に掲載された。

従来の自己修復材料は、凹んでももとに戻るという材料自体の特性を利用したものや、切れても繋がる結合を用いたものが主流だった。一方、硬いものは傷つくと修復しにくいという課題は解決されておらず、これを解決する新しい設計原理での自己修復材料の開発が望まれていた。

同研究グループは今回、リング状の分子をひも状の分子が貫通した「ポリロタキサン」という高分子をベースとし、その間に切れても繋がる可逆的な結合を導入した設計の自己修復材料を開発した。同材料では、溶媒を含んだ状態では、切断・再接触させても10分以内に修復率がもとの80%以上まで回復し、また溶媒を含まないフィルムの状態では、表面につけた傷が30分以内にほぼ100%まで回復することが示されている。これは、ポリロタキサンの輪分子がひも上を自由に運動できる性質と、可逆的な結合の性質との相乗効果によるものであるという。

同研究グループは今後、自己修復コーティング材料のような化成品から止血シートのような医療用材料まで、幅広い分野で製品化に向けた検討を進めていく予定であるとしている。

ポリロタキサンのひも状分子に沿った輪分子の動きを利用した「物理的自己修復(凹み傷がもとに戻る)」の概念と、分子レベルで切れても繋がる可逆的結合を利用した「化学的自己修復」の概念、およびそれらを組み合わせた自己修復材料の概念図

今回開発された材料の自己修復性。ゲル状態の材料を2つに切断し、切断面を再接触させると数秒後には他方を持ち上げられるほどまで自己修復する。溶媒を除いたフィルム状の材料では、表面にカッターナイフで付けた傷がほとんど見えなくなるまで修復する