マサチューセッツ工科大学(MIT)とアメリカ航空宇宙局(NASA)は、翼全体を滑らかに変形させながら飛行する「モーフィング翼」の開発を進めている。すでに試作したモーフィング翼の風洞実験や無人機のテスト飛行などを行っており、良好な結果を得ているという。実用化されれば、飛行機の燃費を劇的に削減できる可能性がある。

1903年、ライト兄弟の初飛行に使われた飛行機「フライヤー1」では、木と布でできた翼をワイヤーと滑車を用いてねじり、たわませることによって操縦する仕組みが採用されていた。これは一種のモーフィング翼であったと言える。その後の飛行機の歴史では、ヒンジで連結された動翼および補助翼が主流になっていったことを考えると、MITとNASAによるモーフィング翼開発は、最新のテクノロジーを使ってライト兄弟の時代へと原点回帰する試みであるとみることもできる。

モーフィング翼は軽量の構成単位「デジタルマテリアル」を組み合わせて作られる(出所: MIT)

モーフィング翼によって翼の航空力学特性と敏しょう性が向上するため、大幅な燃費改善が期待できる。このためモーフィング翼についてはこれまでにもさまざまな研究開発が行われてきたが、飛行中に翼を変形させるための複雑な制御機構を搭載することで機体重量が増し、モーフィング翼による効率化という利点が相殺されてしまうことが最大の課題となっていた。また機構の複雑化は、信頼性の面からも問題があった。

今回のモーフィング翼では、研究チームが「デジタルマテリアル」と呼ぶ小型で軽量のサブユニットを構成単位とすることで、軽量化と機構の単純化を実現した。飛行機の胴体部に設置したサーボモータを駆動させ、ねじれの力を翼全体に伝えることでモーフィング翼の形状を制御する仕組みとなっている。翼の性能を高めるため、鳥の羽毛または魚のウロコのような材料で翼を覆っていることも特徴である。

モーフィング翼の形状制御は胴体部のサーボモータで行う(出所: MIT)

サブユニットをレゴブロックのように組み合わせることでさまざまな形態を自由に作れるため、翼の製造プロセスを簡素化することができる。また、翼の一部が破損した場合にも、破損したサブユニットを交換するだけで簡単に修理可能となる。不要になった翼をサブユニットに解体し、まったく違う翼のサブユニットとして再利用することもできる。こうした一連の製造プロセスを小型ロボット群を使って自動化する研究も進められている。また、翼だけなく、機体全体をデジタルマテリアルによって組み立てることも可能であるという。

風洞実験では、既存の翼の1/10程度に軽量化したモーフィング翼によって、既存品に匹敵する空力特性を得られることが示された。無人機のテスト飛行にも取り組んでおり、資格保有のテストパイロットによる初期テストでは、曲芸飛行での良好な応答性が確認されたという。

研究チームは、デジタルマテリアルを用いたモーフィング翼の技術について、航空分野だけでなく、超高層ビルや橋、宇宙空間での構造物、風力発電システムなど幅広い応用可能性があるとしている。