ファイルメーカーは、iPadとFileMakerのビジネス導入における最新事例を発表した。クラフトビールの製造および販売を行うヤッホーブルーイングは、全国の飲食店に出荷するビール樽の返却履歴を管理するカスタム AppをFileMakerプラットフォームで構築し、iPadで運用してるとのことだ。導入による効果として、樽の紛失による経費の大幅削減、記録漏れなどヒューマンエラーの低減、タイムリーな生産計画への貢献などが挙げられている。

ファイルメーカーのWebサイトで公開された事例ムービー

長野県の軽井沢に拠点を置くヤッホーブルーイングのビールは、浅間山の麓にある醸造所で造られ、全国に届けられている。飲食店向けの製品は樽に充填され、ここから出荷されているが、飲食店で空になった樽を出荷元に返却する際、遅れが出たり、誤って違うメーカーに返却されてしまったりすることがあり、樽が紛失して追跡できなくなるという問題を抱えていた。この問題を解決するため、同社ではiPadとFileMakerプラットフォームを導入したという。

導入以前は、ヤッホーブルーイングで管理している約1万個の樽のうち、前述のような事情で1カ月に20個ほど紛失していたとことだったが、導入後、樽の紛失は月に1個あるかないかという程度にまで減少し、この分の損失がほぼゼロになったため樽を補充する経費が大幅に削減できたという。ちなみに、樽の価格は1個あたり約2万円だ。

さらに、樽の動きを正確に把握できるようになったことが、生産計画にも貢献していると報告している。樽の返却予定が正確に分かるため、樽の在庫数を予想できるようになり、どれぐらいの量のビールを造ればいいか、計画を効率的に無理なく立てられるようになった。ビールの製造には麦汁を作るところから発酵、熟成まで約1カ月かかるので、出荷できる量を事前に把握するのは非常に重要なのである。

FileMakerで作成されたカスタム Appは、顧客から受注した注文情報を管理している基幹システムと連動している。事務所ではデスクトップPCのFileMaker Proでカスタム Appを実行して、樽に貼るラベルを印刷する。ラベルに必要な情報(樽のサイズ、出荷先、ビールの種類、取引ごとに生成されるID)を基幹システムから受け取り、バーコードを生成してラベルプリンターに出力し、出荷時にそのラベルを樽に貼り付ける。使用済みの空樽が返却されてきたら、iPadのFileMaker Goでカスタム Appを実行し、Bluetooth接続されたバーコードスキャナでラベルのバーコードを読み取る。これだけで、どの顧客にいつ出荷した樽が返却されたのかカスタム Appに記録されるのだ。この返却記録は、iPadからWiFi経由でFileMaker Serverへと即座に反映され、事務所でも現場でも常に最新の情報が閲覧可能となる。

カスタムAppの開発を手がけた株式会社U-NEXUSの取締役セールスディレクター・横田志幸氏は、バーコードとモバイルデバイスを活用して物品を追跡/管理したいというビジネスニーズは、あらゆる業種で多いのだが、iPadのモバイル性能の高さと、iOSデバイスと親和性の高いFileMakerプラットフォームの組み合わせは、こうした課題の解決には最適でだと述べている。

ヤッホーブルーイングに導入されたカスタム Appは、飲食店向け樽の出荷から返却までの管理に特化したものだが、樽をこのように管理できると社内に認知されたことをきっかけに、同社の社員の中ではFileMakerを使ってさらに業務効率化できそうなことを考える意欲が高まっているという。ヤッホーブルーイングの社長・井出直行氏は、FileMakerを取り入れたことで、記録がきちんと残るようになった、その記録をあとから見返すこと、新たな気づきがあり、そこからいろいろなアイデアや提案が出てきてモチベーションが上がって、新しいことへのチャレンジにつながっていると話す。

ファイルメーカーは、現在、東京・千代田区のJPタワーホール&カンファレンスでFileMakerの総合イベント「FileMaker カンファレンス 2016」を開催中。ヤッホーブルーイングの導入事例は、初日のビル・エプリング社長の基調講演でも紹介された。