国立がん研究センター(国がん)などはこのほど、生涯喫煙量と突然変異数には正の相関が見られ、喫煙が複数の分子機構を介してDNAに突然変異を誘発していることを明らかにした。

同研究で解析に用いたがん種と症例数(※喫煙歴のデータが無いため、両方を合わせた数字。喫煙者症例における突然変異増加について、統計的に突然変異の増加を認めたがんを黄色で示している)

同研究は、国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長、十時泰ユニット長、理化学研究所統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、藤本明洋客員研究員らをはじめとする、日英米韓の国際研究グループが行ったもの。

喫煙と関連すると報告されている17種類のがんについて、喫煙者患者2,490症例、非喫煙者患者1,062症例、喫煙データなし1,691症例の計5,243症例を対象に、がんゲノム変異データ(全エクソン解読4,633症例、全ゲノム解読610症例)を用いて解析を行った。

その結果、すべてのがんデータを合わせた比較では、喫煙者に発症したがんは、非喫煙者に発症したがんと比べて、特に肺がん(腺がん)、喉頭がん、口腔(こうくう)がん、ぼうこうがん、肝臓がん、腎臓がんにおいて、統計的に有意な突然変異数の増加が認められたという。

喫煙量から計算すると、1年間毎日1箱を喫煙すれば、肺では150個、喉頭では97個、咽頭では39個、口腔では23個、膀胱では18個、肝臓では6個の突然変異が蓄積していると推計されている。

また、今回は変異パターンと喫煙歴についても検討を行った。国際がんゲノムコンソーシアム内の国際共同研究により、これまでに7,000例を超えるがんゲノム解読データを用いて、特徴的な突然変異パターン(mutation signatureと呼ばれる)の同定が網羅的に行われ、これまでに30を超える特徴的なパターンが発見されている。

このパターンの約半数は既知の発がん要因(喫煙、紫外線、DNA修復異常、肝臓がんの原因として知られるアフラトキンB1暴露など)との関連が強く見られたことから、個々の発がん要因はヒトの遺伝子において特徴的な突然変異パターンを誘発すると考えられている。そして、喫煙と強く相関する変異パターンとして、「シグネチャー4」が認められている。

今回の実験では、このシグネチャー4を含んだ5つの変異パターンが、喫煙者のがんにおいて有意に増加していることも明らかになった。特にシグネチャー4は、肺がん(腺がんならびに扁平上皮がん)と喉頭部がんにおいて、有意に喫煙者に多く認められたという。これらの臓器がんは、たばこ由来の発がん物質暴露が間接的に突然変異を誘発し、発がんリスクとなっていることが推測できる。

喫煙によって発がんリスクが上昇するがんの3つのタイプ

この研究結果によって、がんの発症において喫煙が全ゲノムレベルで突然変異を誘発していることが再確認され、がんの予防における禁煙の重要性が強調された。

同研究グループは「今後喫煙がどのように間接的な突然変異誘発機構を活性化するのかに関する分子機構の詳細な解明によって、喫煙関連がんの予防や治療が進むことが期待されます」とコメントしている。