国立がん研究センター(国がん)などは11月4日、喫煙との関連が報告されている17種類のがん5243症例のがんゲノムデータをもとに喫煙と突然変異との関連について検討を行った結果、生涯喫煙量と突然変異数には正の相関が見られ、喫煙が複数の分子機構を介してDNAに突然変異を誘発していることを明らかにしたと発表した。

国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野 柴田龍弘分野長

同成果は、国立がん研究センター研究所がんゲノミクス研究分野 柴田龍弘分野長、十時泰ユニット長、理化学研究所統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、藤本明洋客員研究員らをはじめとする日英米韓の国際研究グループによるもので、11月3日付けの米国科学誌「Science」に掲載された。

同研究グループは今回、喫煙と関連すると報告されている17種類のがんについて、喫煙者患者2490症例、非喫煙者患者1062症例、喫煙データなし1691症例の合計5243症例に対し、がんゲノム変異データ(全エクソン解読4633症例、全ゲノム解読610症例)を用いて解析を行った。

この結果、喫煙者に発症したがんでは、非喫煙者に発症したがんと比較して、特に、肺腺がん、喉頭がん、口腔がん、膀胱がん、肝臓がん、腎臓がんにおいて、統計的に有意な突然変異数の増加が認められた。

また、喫煙歴および喫煙量から突然変異数の平均値を計算すると、1年間毎日1箱を喫煙することで、肺では150個、喉頭では97個、咽頭では39個、口腔では23個、膀胱では18個、肝臓では6個の突然変異が蓄積していると推計された。

今回の研究で解析に用いられたがん種と症例数。*は喫煙暦のデータがないため両方を合わせた数字。統計的に突然変異の増加が認められたがんは黄色で示されている(資料提供:国立がん研究センター)

これまでの国際がんゲノムコンソーシアム内の国際共同研究により、喫煙と強く相関する変異パターンとして、シグネチャー4という特徴的な突然変異パターンが同定されている。ヒトのがんで見られるシグネチャー4は、培養細胞をたばこ由来の発がん物質であるベンゾ[a]ピレンで処理した後に発生する突然変異パターンと非常に類似しているという。

今回、変異パターンと喫煙暦について検討を行ったところ、このシグネチャー4を含む5つの変異パターンが喫煙者のがんにおいて有意に増加しているのが認められた。特にシグネチャー4は、肺がん(腺がん、扁平上皮がん)と喉頭部がんにおいて、有意に喫煙者に多く認められた。したがってこれらのがんにおいては、喫煙による直接的な発がん物質暴露が突然変異を誘発し、がんが発生していると考えられる。

このようにたばこ由来発がん物質暴露が直接的に遺伝子変異を誘発しているがんのほか、今回の解析では、膀胱がんや腎臓がんなど間接的に突然変異を誘発するタイプ、子宮頸がんや膵がんなど明らかな変化パターンの増加が認められないタイプのがんが存在することも明らかになった。

喫煙によって発がんリスクが上昇するがんには少なくとも、たばこ由来発がん物質暴露が直接的に突然変異を誘発しているがん(肺がん、喉頭がん、肝臓がん)、たばこ由来発がん物質暴露が間接的に突然変異を誘発しているがん(膀胱がん、腎臓がん)、明らかな変異パターンの増加が認められなかったがん(子宮頸がん、膵がん)の3つのタイプが存在する

同研究グループは、今回の成果について、「がんの発症において喫煙が全ゲノムレベルで突然変異を誘発していることが再確認され、がんの予防における禁煙の重要性が強調されるとともに、今後喫煙がどのように間接的な突然変異誘発機構を活性化するのかに関する分子機構の詳細な解明によって、喫煙関連がんの予防や治療が進むことが期待されます」とコメントしている。