理化学研究所(理研)は10月26日、酸化ストレス疾患のマーカーを市販の安価な試薬だけで簡便に検出する方法を開発したと発表した。

同成果は、理研 田中生体機能合成化学研究室 田中克典准主任研究員、同大学院生リサーチ・アソシエイトの髙松正之氏らの研究グループによるもので、10月26日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

脳梗塞やアルツハイマー、がんなどの酸化ストレスを原因とする疾患では、生体内で「アクロレイン」と呼ばれる有機化合物が過剰に発生しており、アクロレインが生体内のタンパク質のアミノ基と反応すると、「ホルミルデヒドロピペリジン(FDP)」が生成される。酸化ストレス疾患のひとつである脳梗塞のモデル動物や患者では、FDPが多く生成されていることが知られており、これまでに尿や血液中のFDPの量を抗体で検出する方法が開発されてきたが、抗体を使うため、コストが高い、利便性が悪い、結果が出るまでに時間がかかるなどといった課題があった。

そこで今回、同研究グループは、FDPを直接検出するのではなく、FDPが還元する物質を測定することで、尿や血液からFDPの量を検出する手法の開発を試みた。この結果、生体内で生成されたFDPとニトロベンゼン誘導体(4-ニトロフタロニトリル)を塩化カルシウム存在下で加熱したところ、4-ニトロフタロニトリルがアニリン誘導体(4-アミノフタロニトリル)に還元されることを発見。さらに、この4-アミノフタロニトリルは著しい蛍光性を示すことを見出した。

また、同反応を利用して、ラットやマウスの尿や血清サンプルに塩化カルシウムと4-ニトロフタロニトリルを加えて加熱した後、4-アミノフタロニトリルが発する蛍光を測定することで、サンプル中のFDPの量を測定することにも成功している。

6週齢のマウスの尿に含まれるFDPを測定したところ、開発した方法と抗体を使ったELISA法で測定したFDPの量に差はほとんどみられなかったという。また、4~50週のさまざまな週齢のマウスや、24週齢の出産前あるいは出産後のマウスの尿10サンプルを用いて測定した結果、一挙に5時間で簡便にFDPの量を検出できた。

同手法で使用する塩化カルシウムと4-ニトロフタロニトリルは安価な市販試薬であるため、従来の抗体を使ったELISA法に比べて1/10000以下のコストで実施することができるという。すでにクリニックで治験が開始されており、同研究グループは、核磁気共鳴画像法に代わって、健康診断での検査法として幅広く活用されることが期待できるとしている。

マウスやラットから採取した尿や血清サンプルに、4-ニトロフタロニトリルと塩化カルシウムを加えて加熱すると、サンプル中のFDPによって蛍光性の4-アミノフタロニトリルが効率的に生成される。4-アミノフタロニトリルが発する蛍光量を測定することで、尿や血清に生成されたFDPの量を検出できる(画像提供:理化学研究所)