大阪大学(阪大)は10月24日、ヒトと植物の部分的な細胞融合に成功したと発表した。

同成果は、大阪大学大学院工学研究科 和田直樹特任助教、鳥取大学染色体工学研究センター 押村光雄教授、大阪大学大学院薬学研究科 福井希一招へい教授らの研究グループによるもので、10月4日付けの米国科学誌「ACS Synthetic Biology」に掲載された。

今回、同研究グループは、シロイヌナズナ由来の細胞とヒト細胞を融合する条件・方法の検討を重ねることで、部分的にヒトと植物の融合細胞を獲得することに成功した。同融合細胞には、ヒトの全染色体が維持されていたため、ヒト細胞と同等の細胞環境であると考えられるが、この中に植物の染色体領域を持つヒト/植物染色体が観察された。

さらに、同細胞を培養していくなかで、ヒト/植物染色体の構造が変化し、植物染色体の部分だけが抜け出た、独立した植物染色体を形成していることを見出した。この植物染色体は安定に維持されていることから、ヒト染色体を維持する仕組みは植物染色体にも働いているといえる。

また、このヒト/植物染色体は、さまざまな植物遺伝子をそのまま維持していることもわかった。その遺伝子発現を網羅的に解析した結果、さまざまな植物遺伝子が融合細胞中で発現しており、ヒトと植物のあいだで、遺伝子発現の仕組みが保存されていることが明らかになった。

植物と動物は、約16億年前に共通祖先から分岐し、それぞれ独自の進化を遂げてきたと考えられているが、長い進化の歴史を経て、お互いのどのような機能がどの程度保存されているのか、という点についてはわかっていない。今回の結果により、生物は、染色体を維持する仕組みや遺伝子を発現する仕組みを保存していることが明らかになったといえる。

同研究グループは今回開発した融合細胞について、異種染色体安定化に必要な普遍的原理を明らかにし、異種ゲノム、染色体導入による有用生物の育種を加速化させることが期待されるとしている。

ヒトと植物の融合細胞のイメージ図。(A)ヒト細胞と植物細胞を融合し、植物染色体を持つヒト細胞が得られた。当初、植物染色体はヒト15番染色体に転座した形で維持されていたが、その後構造変化を起こし、植物DNAのみを持つ独立した染色体となった(赤:植物染色体、青:ヒト染色体)。(B)ヒト細胞環境下で、植物由来の染色体が独立に維持されること、植物の遺伝子が発現されることを明らかにした