国立遺伝学研究所(遺伝研)は10月24日、脳の細胞中で遺伝子機能を解析するための新規ベクターシステム「Supernovaシリーズ」を開発したと発表した。

同成果は、国立遺伝学研究所 形質遺伝研究部門 羅ブンジュウ研究員、水野秀信助教らの研究グループによるもので、10月24日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

脳の神経回路が作られ、機能するしくみを、細胞または分子レベルで理解するためには、脳の中に高密度で存在するニューロンのうちのごく少数だけを標識し、そのニューロン特異的に目的の遺伝子をノックアウトして、細胞の挙動を追跡することが必要だが、従来の方法では標識される細胞の密度が高くなりすぎるため単一細胞解析には適さなかったり、適用できる発達段階、脳の領域、ニューロンの種類、ノックアウト可能な遺伝子が限られたりするなどといった問題があった。

同研究グループが開発した「Supernova法」は、単一細胞の標識と同時に標識細胞特異的に遺伝子ノックアウトができるというもの。2種類のベクター(ベクター1とベクター2)を脳に導入することにより、ベクターが導入された細胞のうちの一部でのみ遺伝子発現が増幅され、少数の細胞のみが極めて明るく蛍光標識される。また、floxマウスと呼ばれる遺伝子組換マウスを用いたり、ベクター3を同時に導入したりすることにより、標識された細胞特異的に遺伝子をノックアウトすることもできる。

2014年に水野助教らは、同手法の原型を用いて、生きている新生仔マウスの脳の中の神経細胞を明るく標識し観察することに成功していたが、今回、同研究グループは遺伝子を操作するために、ベクター3を用いてTALENやCRISPR/Cas9などのゲノム編集技術を取り入れることで、高性能で汎用性のあるSupernovaシリーズを構築。

この結果、遺伝子組換動物ではない多くのモデル生物において遺伝子をノックアウトできるようになった。また、ベクター導入に、これまでの子宮内電気穿孔法に加えてアデノ随伴ウイルスが利用できるようになり、幅広い組織への適用が可能となった。

同研究グループは、今回開発したベクター類について、リクエストに応じて国内外の研究室に提供する予定であるとしており、また非営利のプラスミドバンクへの寄託手続きも進めているという。

Supernova法のしくみ。2種類のSupernovaベクター(ベクター1、ベクター2)を組み合わせて脳に導入することで、ベクター1とベクター2を取り込んだ細胞のうちの一部でのみ正のフィードバックにより蛍光タンパクの発現の増幅が起こり、強い蛍光を発する。floxマウスを用いるとCre/loxP法で目的の遺伝子をノックアウトできる。また、TALENやCRISPR/Cas9法を利用したベクター3を導入すれば、遺伝子組換動物を用いずに目的の遺伝子をノックアウトすることもできる。ベクターは、子宮内電気穿孔法あるいはアデノ随伴ウイルスを用いて導入する