東京医科歯科大学(TMDU)は10月25日、全身性自己免疫疾患である全身エリテマトーデス(SLE)の発症を抑制するメカニズムを解明したと発表した。

同成果は、東京医科歯科大学難治疾患研究所免疫疾患分野 鍔田武志教授、赤津ちづる特任助教、同分子構造情報学分野 伊藤暢聡教授、沼本修孝助教らの研究グループによるもので、10月24日付けの米国科学誌「The Journal of Experimental Medicine」オンライン版に掲載された。

SLEは、種々の核成分に対する自己抗体が産生され、抗原抗体複合体が組織に沈着し炎症を起こす疾患で、全身のさまざまな臓器に多彩な症状を引き起こすことが知られている。慢性の疾患であるため、継続的にステロイド剤や免疫抑制剤による治療が行われるが、ステロイド長期使用による生活習慣病や免疫抑制による感染症などの副作用が問題となっていた。

SLEではとりわけ、RNAと核タンパク質の複合体であるSm/RNPへの自己抗体(抗Sm/RNP抗体)が重要な役割を果たすことがこれまでに示されている。抗Sm/RNP抗体の産生は、Sm/RNPが、ウイルスRNAなどRNA関連抗原に対する自然免疫レセプターであるTLR7を介して免疫細胞を活性化することで起こるが、このメカニズムについては明らかになっていなかった。

今回、同研究グループは、主にBリンパ球が発現する抑制性の膜タンパク質CD72が、Sm/RNPと特異的に結合することを発見。さらにマウスを用いた解析によって、CD72がSm/RNPによる免疫細胞の活性化およびSm/RNPへの自己抗体産生を抑制することを明らかにした。一方、Sm/RNPと同様にTLR7を介して免疫細胞を活性化する合成TLR7リガンドへの反応性は、CD72では抑制されなかった。したがって、CD72は特異的な反応のみを抑制しているものと考えられる。

死細胞から漏出したSm/RMPは、抗体を産生するBリンパ球を刺激して抗Sm/RNP抗体産生を誘導する。この抗Sm/RNP抗体が、免疫複合体を介してSLEの発症を引き起こすが、Bリンパ球に発現する膜タンパク質CD72がSm/RNAに結合することで、Bリンパ球の抗Sm/RNP抗体のみが抑制される

この仕組みを増強することができれば、病原体への免疫応答は抑制せずに、SLEでの自己免疫応答のみを抑制するという副作用のない新しい治療法となることが期待される。鍔田教授は、CD72に結合する化合物や抗体医薬品をスクリーニングすることで、CD72の機能を増強する治療薬候補が見つかる可能性があるとしており、その他の可能性のある方法も含めて、今後、製薬メーカーと調整を進めていく考えだ。

左から、東京医科歯科大学難治疾患研究所分子構造情報学分野 沼本修孝助教、伊藤暢聡教授、同免疫疾患分野 鍔田武志教授、赤津ちづる特任助教