東京大学(東大)は10月21日、オートファジーが誘導されると形成される二重膜「オートファゴソーム」の内膜分解を促進するメカニズムを哺乳類細胞で発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻分子生物学分野 本田郁子助教、水島昇教授、東京大学医学部医学科 坪山幸太郎氏(東京大学大学院新領域創成科学研究科 博士課程)らの研究グループによるもので、10月20日付けの米国科学誌「Science」オンライン版に掲載された。

細胞質分解システムであるオートファジーが誘導されると、オートファゴソームと呼ばれる二重膜構造体が細胞質の一部を取り囲む。その後、オートファゴソームの外膜にリソソームが融合することで、オートファゴソームの内膜とともに内容物が分解される。オートファゴソームの形成については、約20種類のATGタンパク質群というオートファジー関連タンパク質群が必要であることが酵母や哺乳類で明らかになっているが、オートファゴソームの成熟、リソソームとの融合、オートファゴソームの内膜と内容物の分解といったオートファジーの後期過程については、いまだ多くのことが明らかになっていない。

オートファジーが誘導されると、内膜・外膜から成る二重膜のオートファゴソームが細胞質成分を取り囲みながら形成される。続いてオートファゴソームはリソソームと融合し、オートファゴソームで囲んだ細胞質成分が分解される。細胞質成分の分解により生じたアミノ酸などの分解産物は再利用される

同研究グループは今回、哺乳類細胞でオートファゴソームに存在するタンパク質シンタキシン17と、リソソーム標識色素ライソトラッカーの局在を同時に観察することで、オートファゴソームとリソソームの融合する過程を蛍光顕微鏡法で解析した。

この結果、野生型の細胞では、オートファゴソームが完成すると数分後にリソソームが融合し、オートファゴソームの内膜と外膜の間が酸性化され、さらにその約7分後にオートファゴソーム内部全体の酸性化、つまり分解される様子が確認された。

また、同方法により、ATGタンパク質群の機能を調べた結果、オートファジーの前半で機能するATGタンパク質群を欠損した細胞では、オートファゴソームが形成されないことが確認された。

しかし予想に反して、後半で機能する「ATG結合系」を欠損した細胞では、形成効率は低下するものの、正常とほとんど区別できないオートファゴソームが形成され、さらにそれらはリソソームと融合することもわかった。しかし、オートファゴソーム内膜の分解は60分以上遅延しており、野生型細胞のオートファゴソームがほぼ球形であるのに対し、ATG結合系を欠損する細胞のオートファゴソームは楕円体であることから、ATG結合系はオートファゴソームの完成に必要であることが示唆された。

これにより、ATG結合系はオートファゴソームの完成には必要であるものの、それ自体はリソソームとの融合に必須ではなく、リソソーム融合後の内膜を効率的に分解するために重要であることが示されたといえる。

今回の成果について、同研究グループは、オートファジーの分解機構の解明の大きな糸口になることが期待されるとコメントしている。

野生型細胞ではオートファゴソームがリソソームと融合してからオートファゴソームの内膜が分解されるまで約7分かかる(A)。一方、ATG結合系欠損細胞においては、それが60分以上かかることが明らかになった(B)