ローレンス・バークレー国立研究所らの研究チームは、ゲート長1nmのトランジスタを作製し、デバイス動作を実証したと発表した。これまで報告された中では最小のトランジスタとなる。

最近10年ほどの間に、半導体デバイスの微細化は限界に近づきつつあると指摘されてきた。現在製品化されている最先端のシリコントランジスタはゲート長10~20nm程度だが、ゲート長5nmに達すると量子力学的な効果が大きくなり、デバイスの安定動作が困難になる。これが半導体微細化の物理的限界であると考えられてきた。

今回作製されたゲート長1nmのトランジスタの概要 (出所:バークレー研究所)

二硫化モリブデンをチャネル部に使用して短ゲート化を実現

トランジスタは基本的に、ソース、ドレイン、ゲートの3つの要素から構成される。ゲートに印加する電圧を制御することでソースからドレインに流れる電流量を制御することができるので、トランジスタのオン/オフ動作の切り替えが可能になる。ソース・ドレイン間で制御された電子が流れる領域をチャネルと呼ぶ。

研究チームは今回、トランジスタのゲート電極にカーボンナノチューブ(CNT)、チャネル部に二硫化モリブデン(MoS2)を用いてトランジスタを作製した。

シリコンとMoS2を比較すると、シリコンのほうがMoS2に比べて結晶中を移動する電子の有効質量が小さい。ゲート長が十分大きいときには、有効質量は小さいほうが電子の流れを制御しやすい。しかし、ゲート長が5nm以下と短くなると、トンネル効果と呼ばれる量子力学的現象が顕著になり、ゲート電圧がしきい値以下でも電子の移動が勝手に起こるようになる。つまり、電子の移動をゲート電圧によって制御できなくなるため、トランジスタをオフすることができなくなってしまう。

一方、チャネル部にMoS2を用いた場合、電子の有効質量が大きいため、より短いゲート長であっても制御可能となる。またMoS2は2次元の原子薄膜(膜厚0.65nm程度)にでき、比誘電率が低いことも1nmという短いゲート長でのトランジスタ制御に寄与しているという。

従来のリソグラフィ技術では1nmの構造形成が難しいため、ゲート電極には直径1nmの中空の筒状構造である単層CNTを用いた。

作製されたトランジスタの透過電子顕微鏡による断面像。CNTゲートとMoS2は絶縁膜である二酸化ジルコニウムで分離されている (出所:バークレー研究所)

「ムーアの法則はまだ存続可能」

研究チームはこのデバイスの電気的特性を測定し、トランジスタ内での電子の制御を有効に行えることを実証した。2016年10月7日付けで「サイエンス」に掲載された論文によると、作製されたデバイスはサブスレッショルド係数65mV/dec程度での良好なスイッチング動作を示し、オン/オフ比は106であった。

研究リーダーの Ali Javey 氏は、今回のデバイスはまだコンセプト段階であるとし、トランジスタのチップ上への集積ができていないことや、デバイスの寄生抵抗を下げるための自己整合的な作製プロセスが開発されていないといった問題・課題を挙げている。その上で、今回の研究は「トランジスタ微細化においてゲート長5nmという制約を超えることができると示した点で重要である」と強調。「適切な半導体材料とデバイス構造を用いることでムーアの法則はしばらくの間存続可能になる」とコメントしている。