現在、日本で飼育されている猫は約987万4000頭1)と言われ、その平均寿命も15.75歳まで伸びているが、腎不全が原因で死亡する率が、他の動物に比べ高いことが経験的に知られている。

近年は、5~6歳頃に尿管結石や腎炎などによる急性腎障害を罹った後、腎機能が完全に回復しないまま慢性腎不全、尿毒症となり15歳前後でなくなるケースが多くなっているが、なぜ腎機能が回復せず、最終的に致死性の腎不全に至ってしまうのかは良く分かっておらず、確かな治療法もなかった。

東京大学大学院医学系研究科 附属疾患生命工学センター分子病態医科学部門の宮崎徹 教授らの研究グループは、これまでの研究から、血液中のタンパク質AIM(apoptosis inhibitor of macrophage)が急性腎不全を治癒させる機能を持っていることを発見していたが、猫のAIMはマウスやヒトのAIMと異なる特徴を持っており、急性腎不全時に機能しないため、正常な治癒・回復が障害されていることを発見。その成果の詳細が2016年10月12日付けのオープンアクセスの学際的電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載された。

研究によると、猫のAIMを解析したところ、本来、尿細管中デブリの除去を行うはずのAIMが機能不全を起こしており、腎機能が回復できないことを発見。AIMをマウス型から猫型に変えたマウス(AIM猫化マウス)を作製し、急性腎障害を発症させた後に、マウスAIMを静脈注射することで、尿細管の詰まりが解消され、腎機能が改善し、致死率も100%であったものが20%へと低下することを確認したとする。

この結果を受けて研究グループでは、AIMにより急性腎障害から良好に回復させうる可能性が示されたとコメントしているほか、急性腎障害を治癒した後も、定期的にAIMを投与し腎臓のゴミを掃除することで、慢性腎不全へ移行するリスクを低下させ、猫の健康寿命の延長につながることが期待されるとしている。また、ヒト患者においても、AIMによる急性腎不全の治療や慢性化の予防への期待と現実性をさらに高めるものとなるとも説明している。

ヒトAIMやマウスAIMと猫AIMの違い。ヒトやマウスではAIMが尿細管中に詰まった死細胞デブリに付着し、上皮細胞がそれを貪食することで、管腔の閉塞を解消。尿細管上皮も回復し、腎機能が回復するが、猫のAIMは尿中に移行できず、デブリに付着できないため、デブリの除去ができず、詰まりが解消しない。その結果、腎機能は回復できず、死亡もしくは慢性腎不全化してしまう (出所:東京大学。Scientific Reports掲載論文より引用・改変したもの)

参考文献

1):一般社団法人 ペットフード協会 平成27年 全国犬猫飼育実態調査