電磁材料研究所、東北大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)は9月28日、透明強磁性体の開発に成功したと発表した。

同成果は、電磁材料研究所 小林伸聖主席研究員、東北大学 学際科学フロンティア研究所 増本博教授、同大学金属材料研究所 高橋三郎助教、JAEA 先端基礎研究センター 前川禎通センター長らの研究グループによるもので、9月28日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

透明な磁性体としてこれまでに、磁性元素をドープした磁性半導体、マグネタイトFe3O4やヘマタイトFe2O3などの酸化鉄が提案されてきた。しかし、磁性半導体の場合、磁気転移温度が低いため室温での磁化は非常に小さく、また、酸化鉄では、強い磁化を持っているマグネタイトの場合、光透過性に劣り、高い光透過性を示すヘマタイトの場合、磁化が小さく、室温において実用に適う大きな磁化と高い光透過性の両方を兼ね備えた材料は実現されていなかった。

同研究グループは今回、鉄(Fe)-コバルト(Co)合金およびフッ化アルミニウム(AlF3)をターゲットとしたスパッタ法により、母相中にナノサイズの微小な粒子が分散した材料である「ナノグラニュラー膜」を作製。Fe-Co合金は最大の磁化を有する強磁性金属、AlF3は安定で優れた光透過性を有する誘電体で、膜中では両者が完全に分離して存在するが、これらをナノスケールで混在させた。

この結果、磁化の大きさが18kA/m(0.025T)で可視光領域を含む400~2000nmの波長領域において、透明な強磁性体の作製に成功。磁界中で光透過率を計測した結果、常温で約0.04%という透過率の変化が示された。また理論的解析により、この特性の発現機構は、量子効果(トンネル磁気誘電効果)に基づく新しい磁気-光学効果であることが明らかになっている。

同研究グループは、今後の開発の進展によって、速度、燃料計や地図を自動車や航空機のフロントガラス上に直接表示するデバイスなど、次世代透明磁気デバイスや電子機器の実現が可能となると説明している。

ナノグラニュラー膜の構造、光透過および磁気光学応答のイメージ図。交流電界における量子力学的トンネル効果によって電荷の振動(移動)が起こる。トンネリングは、グラニュールの磁化の相対的な向きに依存し、このスピン依存電荷振動によってトンネル磁気誘電効果が生じ、ナノグラニュラー膜の磁気-光学効果を誘導する

660℃に加熱したガラス基板上に作製したFe9Co5Al19F67ナノグラニュラー膜(1μm)の写真