東京工業大学(東工大)は9月13日、フラーレンの一部を切り出したようなお椀型をした分子形状を持つ「スマネン」を用いて、単分子レベルで分子配向を自在に制御することに成功したと発表した。

同成果は同大 理学院 化学系の藤井慎太郎 特任准教授、同木口学 教授、大阪大学の櫻井英博 教授らによるもの。詳細は、米国化学学会誌「Juernal of the American Chemical Society」(オンライン版)に掲載された。

次世代の半導体メモリとして、FRAMやMRAM、PRAM、ReRAMなど、さまざまな候補が研究されてきているが、その中の1つに、1つの単分子に情報を記録させる単分子メモリがある。分子はナノオーダーと極微小であり、1nmとした場合、分子形状を単分子レベルで制御し、その形状を情報として利用することができれば、1平方インチあたり1Pビットを超す超高密度メモリを実現することが可能となるといわれている。

今回、研究グループでは、基板に吸着させることで上向き、下向きと2種類の配向を持つことが期待されるスマネン分子に注目し、研究を行った。具体的には、金基板の表面にスマネン分子膜を形成し、それをSTM(走査型トンネル顕微鏡)で観測。その結果、スマネン分子は上向き配向ととっていることが分かったほか、STMの探針を近づけると、スマネン分子が反転し、下向き配向をとることを確認したという。また、上向きと下向きとでは、基板の相互作用の大きさが変化し、スマネン単分子の伝道度が変化することも確認。調査の結果、スマネン分子の反転に要するエネルギーが探針を近づけることで減少することが判明。これにより、機械的な力で分子の配向を制御することが可能であり、かつ分子の配向は探針を近づけない限り保存できることが示されたこととなるという。

今回、基板上に吸着したスマネン分子の密度は1平方インチあたり6×1014個で、これは600Tビットの高密度メモリに相当するとのことで、研究グループでは、今後、スマネン分子よりも小さな分子を用いることで、1Pビットを超すメモリの開発を目指すとするほか、分子の配向によって変化するさまざまな特性を活用することで、新たな微小デバイスの開発も目指すとしている。

探針の接近によって誘起される構造変化のイメージと走査型トンネル顕微鏡像(左が上向き配向、中央が遷移状態、右が下向き配向) (提供:東京工業大学)