東京工業大学(東工大)は9月1日、典型元素であるホウ素があたかも遷移金属のように振る舞う新反応を発見したと発表した。これにより、アセチレン誘導体をひとつの反応容器で行う反応で芳香環化できることから、さまざまなπ共役化合物を極めて容易に合成できるようになり、有機エレクトロニクス材料開発への応用が期待されるという。

同成果は、東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 庄子良晃助教、福島孝典教授らの研究グループによるもので、9月1日付けの英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

π共役化合物は、近年盛んに応用開発が行われている有機エレクトロニクスの基盤となる化合物群。今回、同研究グループは、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアセチレン誘導体に対して連続的に炭素—炭素結合形成反応を無触媒で引き起こすことを発見。最終的にはホウ素が脱離することで、純粋な炭化水素からなる共役化合物が得られる。

同反応は、ボラフルオレンというホウ素化合物によるアセチレンの1,2-カルボホウ素化反応と、その生成物であるボレピンの一電子酸化による脱ホウ素化/C-C結合形成反応の2段階からなるもので、2段階目の反応は、これまで知られていなかった新しい反応となる。反応パターンは、遷移金属錯体に典型的に見られる連続的な結合形成反応に類似していたという。

同反応に必要な操作は、「ボラフルオレンとアセチレン誘導体を混ぜ、温めながら撹拌した後で、反応系に安価な酸化剤を加えるだけ」という簡便なものであり、さまざまなアセチレン誘導体をワンポット反応で芳香環化することが可能となっている。

同手法で利用するボラフルオレンは、東京化成工業から有機合成用試薬(製品コード C3421)として販売される予定。また、新合成手法のプロトコルを記載したパンフレットも配布予定となっている。

本反応により得られるπ共役化合物の例。巨大なπ共役系や、複雑な湾曲構造、三次元的な分子骨格をもつものなど、特徴的なπ共役化合物を簡便かつ高価な触媒を使わないで低コストに得ることができる