産業技術総合研究所(産総研)は8月31日、ネクスコ・エンジニアリング東北と共同で、デジタルカメラで橋のたもとから橋梁を撮影した画像を用いて、車両が通行する際に橋梁に生じるたわみの分布を計測できる技術を開発したと発表した。

同成果は、産総研 分析計測標準研究部門 非破壊計測研究グループ 津田浩研究グループ長、李志遠主任研究員らの研究グループによるもので、2016年9月7日~9日に東北大学川内北キャンパスで開催される土木学会の「平成28年度全国大会第71回年次学術講演会」にて発表される。

車両通過時のたわみは、橋梁の健全性の基準となる。従来は橋梁の床版と地面をピアノ線で繋ぎ、ピアノ線の伸縮からたわみを計測する「リング式変位計」が採用されていたが、ピアノ線の取り付けに手間がかかることや、橋梁が山間部や渓谷に架かる場合や直下が海である場合などは、計測が困難になるといった課題があった。

産総研はこれまでに、格子間隔がほぼ等しい格子2つを重ねたときに現れる周期的な模様「モアレ縞」を利用した「サンプリングモアレ法」を応用し、構造物の変位分布を高精度に計測する技術を開発してきており、今回、開通前の常磐自動車道の常磐富岡ICと山元ICのあいだにある9つの橋を対象に、車両通行時に生じる橋梁のたわみを同技術により計測し、従来技術であるリング式変位計による測定結果と比較・検証する実証実験を行った。

一方の格子の横方向を1 %拡大させたときに観察されるモアレ縞の変化

今回開発された技術は、格子模様のターゲットを取り付けた橋梁をデジタルカメラで撮影し、撮影画像をデータ処理して撮影素子画素とターゲットの格子間隔を近づけてモアレ縞を生成させ、モアレ縞の位相値の変形前後の変化からターゲットを取り付けた部分の変位を算出するというもの。また、カメラからの距離によって、撮影されるターゲットの格子間隔が変化することや、計測時のカメラの揺れを補正することを考慮して、新たなたわみ計測アルゴリズムを開発し、橋梁の斜め方向や橋台にカメラを設置してたわみを計測できるようにした。今回の技術で測定されたたわみ量は、従来のリング式変位計で測定したたわみ量と良く一致したという。

検証実験の様子(左)と、2台の散水車が橋を通過した際に測定したたわみ量(右)。この実験では橋梁の壁高欄にターゲットを取り付け、2台の散水車が時速60kmで橋梁を通過する際に橋軸方向から撮影されたターゲットの画像を用いてたわみを計測した

同研究グループは、今回開発した技術について、簡便でありながら高精度なたわみ計測を実現し、老朽化が問題視される社会インフラの健全性評価を大幅に効率化できる新たな技術として期待されるとしている。