群馬大学は8月30日、CRISPR/Casゲノム編集の技術を応用し、特定の遺伝子のみのスイッチを効率的にオンにするDNA脱メチル化技術を開発し、生体に適用させることに成功したと発表した。

同成果は、群馬大学生体調節研究所ゲノム科学リソース分野 畑田出穂教授、森田純代研究員、堀居拓郎助教らの研究グループによるもので、8月29日付けの米国科学誌「Nature Biotechnology」オンライン版に掲載された。

DNAのメチル化と脱メチル化は、遺伝子の発現にかかわるスイッチとなるエピゲノムのひとつであり、遺伝子のスイッチを自在に操ることで、疾患の治療や再生医療に利用できることが期待されている。しかし、従来の薬は、すべての遺伝子のスイッチ全部をオンにするものであり、オンになっては困る遺伝子までオンにしてしまうことによって引き起こされる副作用などの危険性があった。

今回の研究では、まず遺伝子切断活性をなくしたCas9(dCas9)と、DNAのメチル化を外す最初の反応を起こす酵素(TET)を直結させた。この直結したタンパクが標的遺伝子に結合することで、TETの作用により脱メチル化して、標的遺伝子をある程度オンにすることができたが、十分ではなかったため、同研究グループは、脱メチル化能力を向上させるために、dCas9の端に短い目印のアミノ酸配列(タグ)を複数個つないだものと、目印のアミノ酸(タグ)を認識して結合するミニ抗体にTETをつなげたものを同時に細胞に導入して、新規複合体を構成させる方法を開発した。

これにより、特定の遺伝子に複数のTETが作用し、効率的に脱メチル化されることがわかった。また、同複合体を作用させている状態で次世代シーケンサーによりすべての遺伝子のスイッチの状態を調べることにより、ねらった遺伝子のみのメチル化が外れ、スイッチがオンとなっており、他の遺伝子はオンになっていないことが確認されている。さらに、マウスの胎仔の脳に同技術を適用し、有効に働くことも証明されている。

同研究グループは今回の成果について、将来的に遺伝子のスイッチの異常によっておこるがんなどの疾患の治療やiPS細胞の効率的な作製などに応用されることが期待されると説明している。

ねらった遺伝子のスイッチだけをオンにする技術のイメージ