東京大学(東大)は8月29日、超3V級リチウムイオン電池の電解液として機能する、常温で液体のリチウム塩水和物「常温溶融水和物(ハイドレートメルト)」を発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院工学系研究科科化学システム工学専攻 山田裕貴助教、山田淳夫教授、科学技術振興機構 袖山慶太郎さきがけ研究員、物質・材料研究機構 館山佳尚グループリーダーらの研究グループによるもので、8月26日付の英国科学誌「Nature Energy」に掲載された。

既存のリチウムイオン電池において電解液として使われている有機溶媒は、極めて燃えやすく、有毒である。加えて、有機溶媒・電解液の生産から電極・電池の生産に至るまで厳密な禁水環境が必要となるため、生産設備投資や維持費がかかるという課題もある。

そこで近年、有機溶媒を不燃・無毒・安価な水に置き換えた「水系リチウムイオン電池」の研究が盛んになってきているが、水系リチウムイオン電池の電圧は基礎研究レベルでも2V以下となっており、2.4~3.7Vの電圧を有する市販のリチウムイオン電池に対して電圧およびエネルギー密度の面で大きく劣っている。

今回、同研究グループは、特定のリチウム塩2種と水を一定の割合で混合することで、一般的には固体となるリチウム塩二水和物が常温で安定な液体「ハイドレートメルト」として存在し得ることを見出した。

一般的な水溶液は、1.2V程度の電圧で酸素と水素に電気分解されるのに対し、同ハイドレートメルトは、3V以上の高い電圧をかけても分解しない。また、第一原理分子動力学計算による解析の結果、同ハイドレートメルトは、すべての水分子がリチウムイオンに配位した状態で液体となる、一般的な水溶液では取り得ない溶液構造を有しており、この特殊な水分子の状態が異常な高電圧耐性の起源であることが明らかになった。

さらに、同研究グループは、3.1V級(LiNi0.5Mn1.5O4正極-Li4Ti5O12負極)および2.4V級(LiCoO2正極-Li4Ti5O12負極)のリチウムイオン電池の可逆作動に成功。従来2V以下に制限されていた水系リチウムイオン電池の電圧が、有機溶媒を使った商用のリチウムイオン電池と同等レベルまで引き上げられることを示した。また、6分以下での超高速な充電・放電が可能であることも見出している。

今回の成果について、同研究グループは、これまでトレードオフの関係となっていた蓄電池のエネルギー密度と安全性を、高度かつ現実的なレベルで両立可能にするものであると説明している。

2種類のリチウム塩(リチウム塩Aおよびリチウム塩B)を一定の割合で混合すると、極めて少量の水を加えるだけで液体化し、ハイドレートメルトとなる