歯磨きの力ってすごいんです!

子どものころから当然のようにしてきている歯磨き。毎日1回しか磨かない人もいれば、日に3回以上も磨くきれい好きな人もいるだろう。口腔(こうくう)内の菌はさまざまな疾病のリスクにつながると考えられているが、このほど発表された研究によれば、歯磨きはガン予防に有効かもしれないのだ。

海外のさまざまなニュースを紹介する「MailOnline」によると、歯肉出血を引き起こす口腔内の細菌が血液を通して腸に到達し、ガンを引き起こしたり腫瘍を悪化させたりするという。そのため、口腔内の細菌を減らす歯磨きが予防策として有効かもしれないのだ。

研究者はこのほど、良性ポリープの成長やガンに関連する糖分子とくっつくことを可能にするたんぱく質を持つ細菌(フソバクテリウム)を発見した。この細菌は酸素を必要としないため、腸内で繁殖できる。この細菌の成長過程に着目することによって、腸ガンを治す新薬を開発できる可能性もあり、ハーバード大学のウェンディ―・ガレット教授は「この成長メカニズムが解明されれば、ガン腫瘍ができるのを防ぐことができるかもしれない」と力を込める。

フソバクテリウムは歯や歯肉のまわりで他の細菌が繁殖するための「アンカー」の役割を果たすことで、歯肉炎を悪化させる。同様にガンだけではなく、ガンに関連している潰瘍性大腸炎をも悪化させる。フソバクテリウムは健康な人の腸ではほとんど見られないので、「口腔内の病原菌が血液を通じて腸腫瘍に届いたのかもしれない」と研究者は考えている。

マウスで実験をしたところ、フソバクテリウムは腸腫瘍に蓄積されていた。大部分の腸がん腫瘍転移においてフソバクテリウムが検出されたが、腫瘍のない肝生検から取り出されたサンプルからはあまり検出されなかった。これらの一連の研究から、フソバクテリウムが血液を通じて大腸腫瘍に到達し、「Fap2たんぱく質」を使ってホスト細胞と結びつき、腫瘍内で増殖し、腸ガンの進行を早めるのではないかと考えられている。

口腔内の細菌は、身体の他の部分の疾病にも関連している。歯肉出血によって血液中に入った細菌は、心臓疾患や脳卒中と関連している。最新の研究では、口腔内の細菌がアルツハイマー病に関連しているのではないかとも言われている。

歯垢がたまりすぎることによって、寿命が最高で13年も短くなったとする先行研究もある。歯の表面や歯肉に最も多くの歯垢(しこう)が付いた人は、若年死亡率のリスクが80%も高まったという。

口腔内を清潔にできないような人は、他のがんリスクファクターとなるような生活習慣を身に着けている可能性も否定できないが、歯磨きをしておいて損はなさそうだ。

※写真と本文は関係ありません

記事監修: 杉田米行(すぎたよねゆき)

米国ウィスコンシン大学マディソン校大学院歴史学研究科修了(Ph.D.)。現在は大阪大学大学院言語文化研究科教授として教鞭を執る。専門分野は国際関係と日米医療保険制度。