東京大学(東大)は8月3日、最近の重力波初検出に伴って発見された連星ブラックホールは、宇宙ビッグバン直後に形成した原始ブラックホールであるという仮説を提唱したと発表した。

同成果は、東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター 須山輝明助教、京都大学基礎物理学研究所 佐々木節教授、同大学理学研究科田中貴浩教授,、立教大学理学部物理学科 横山修一郎助教らの研究グループによるもので、8月2日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。

2016年2月に初検出された重力波は、太陽のおよそ30倍重いブラックホール連星が合体したときに放出されたものだとわかり、これによってブラックホール同士の連星が初めて発見された。しかし、太陽のような恒星は、ある程度の金属元素を含むことにより進化段階で質量放出を起こすため、太陽質量の30倍もあるブラックホールが最終的に形成されることは難しいと考えられている。そのため、見つかったブラックホールの起源を説明するシナリオの探索が宇宙物理学の重要なテーマとなりつつある。

同研究グループは、今回見つかったブラックホールは、宇宙が誕生直後でまだ非常に高温・高密度だった時期に形成された原始ブラックホールであるという新理論を提唱した。原始ブラックホールは、天体物理起源のブラックホールとはまったく異なる起源を持ち、いまだその観測報告がない一方で、乱立する初期宇宙の理論モデルの中には、原始ブラックホールの存在を予言するものも少なからずあるため、初期宇宙を解明する鍵として重要な研究対象となっている。

今回の研究では、特定の初期宇宙のモデルを採用する代わりに、原始ブラックホールは何らかの機構で作られたという前提で、それらが宇宙初期では空間にランダムに点在していたという状況を出発点とした。これらの原始ブラックホールはその後、一部が重力で引き合って連星を形成し、合体に至る。その物理過程は、一般相対論の運動法則で記述され、原始ブラックホールの数密度を決めれば、連星ブラックホールの合体頻度を予言することが可能となるため、今回は解析計算によって近似的な合体頻度を求めた。

隣接する原始ブラックホール対のなかには、確率的に平均距離よりも十分近いものが存在し、そのような対は宇宙膨張による空間の引き延ばしよりもお互いの重力の方が勝り、重力束縛系を作る。この際、この原始ブラックホール対だけしかなければ、相方の方向に真っすぐに引っ張られ、正面衝突するが、実際には他の原始ブラックホールも存在しており、特に対から一番近い場所にある原始ブラックホールが及ぼす潮汐力の作用により、正面衝突の代わりに離心率が1に近く、軌道が放物線に近い楕円軌道を持つ原始ブラックホール連星が形成され、重力波放出が起こる。

今回は先行研究の方法を、原始ブラックホールが30倍の太陽質量を持ち、暗黒物質への占める割合も小さいという場合に拡張し、合体頻度の解析公式を導出。同公式に基づいて、原始ブラックホールが宇宙に存在する暗黒物質の1/1000を占めていると仮定すると、この推定合体頻度がLIGO-Virgoチームが観測結果に基づいて算出した値と、観測の統計的不定性の範囲で一致することがわかった。

同研究グループは今後、重力波や宇宙マイクロ波背景放射の観測データがさらに蓄積してくることで、今回提唱したシナリオが正しいことを確認できれば、初期宇宙の理解が一段と深まると期待されるとしている。

原始ブラックホール連星形成の模式図。距離が非常に近い原始ブラックホール対は、お互いの重力が宇宙膨張より勝り、重力束縛状態になる。このとき、遠方のブラックホールによる潮汐力によって離心率の大きい連星が形成される