国立極地研究所(極地研)が、「ヒラシュモクザメ」と呼ばれるサメが海中で体を横に60度ほど傾けながら泳ぐことを発見した。体を傾けることで長い背びれが揚力を発生させて泳ぐエネルギーを節約しているという。

写真 ヒラシュモクザメに機器を取り付ける国立極地研究所のメンバーら。長い背びれが見える(左から4人目の黄色い服が渡辺准教授)(提供 国立極地研究所研究グループ)

ヒラシュモクザメは、ハンマーのような形の頭部と長い背びれが特徴のサメの一種。極地研によると、個体数は少なく、その生態はほとんど分かっていなかった。極地研の渡辺佑基(わたなべ ゆうき)准教授らの研究メンバーが2015年2月にオーストラリアの東海岸でイタチザメの調査をしていた際、偶然ヒラシュモクザメを捕獲した。そこで背びれに小型の行動記録計とビデオカメラを取り付けて放流。機器類を回収して調べたところ、体を左や右に横に60度ほど傾けて泳ぎ、5~10分間隔で傾く方向を左右にそれぞれ変えていた。その後カリブ海に面した中米の国のベリーズや大西洋の島国バハマの沿岸で見つけたヒラシュモクザメも同じような遊泳パターンを示すことが確認された。

研究グループは、この特殊な泳ぎ方の謎を解明するために、同種のサメの精巧な模型を作製して流体力学実験を行った。その結果、サメが体を横に傾けると背びれが飛行機の翼のように働いて効率よく揚力が発生することが判明。サメは体を横に傾けることで海中での抵抗力を抑え、最小限のエネルギーで泳ぎ続けられることが分かった。

一般にサメは、普通の魚類と異なり体内に浮き袋を持たないため、多くのサメは左右の胸びれを使って揚力を発生させ、体の沈下を防いでいるが、ヒラシュモクザメは、特別に長く発達した背びれを横に倒し、背びれをあたかも「第三の胸びれ」のように使うことで、遊泳エネルギーを節約しているという。

ヒラシュモクザメの特殊な泳ぎ方について研究グループは、遊泳エネルギーを節約するための「進化の結果」とし、「ヒラシュモクザメの一見奇妙だが理にかなった泳ぎ方は、人間のスイミングスタイルの改良や燃費の良い水中ロボットの作製などに役立つ可能性を秘めている」とコメントしている。

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