7月26日~27日に開催された米FRB(連邦準備制度理事会)のFOMC(連邦公開市場委員会)では、金融政策の現状維持が決定された。昨年12月の利上げ以降、5回連続で現状維持が決定されたことになる。

FOMCの結果を受けて、市場では利上げ観測がさらに後退した。今後の利上げの可能性に関して明確なメッセージが出てこなかったためだろう。

ただ、今回のFOMCの声明文を前回(6月14日~15日開催)分と比べると、注目すべき点がいくつかあった。

まず、景況判断、とりわけ雇用情勢の見方が上方修正された。6月のFOMCは、弱かった5月の雇用統計が発表された直後だっただけに、声明文では「労働市場の改善ペースは鈍化した」「失業率は低下したが、雇用の伸びは鈍った」など慎重な表現だった。今回は、6月の雇用統計が改善したことを受けて、「雇用の伸びは、弱い5月の後、6月に強まった」「労働力の利用度は、ここ数か月に高まった」との判断だった。

この「労働力の利用度」は重要なポイントだ。これが高まっているということは、換言すれば労働力の余剰が縮小していることであり、雇用の改善が続けば賃金上昇圧力が高まることを意味する。いうまでもなくインフレ要因だ。

次に、声明文に「経済見通しの短期的なリスクは低減した」との一文が追加された。これは、6月23日の英国民投票でBREXIT(英国のEU離脱)が決まったことに関連したものだ。6月のFOMC議事録によれば、「来たる英国民投票が金融市場の混乱を招き、米国経済に悪影響を与える可能性がある」との懸念が表明されていた。足元でのNYダウの最高値更新などを背景に、懸念が杞憂に終わりつつあると判断されたのだろう。

そして、今回の決定に対して、カンザスシティ連銀のジョージ総裁が即座の利上げを主張して反対票を投じた。同総裁は3月と4月の会合でも利上げを主張していたが、6月は現状維持の決定に賛成していた。同総裁も英国民投票の悪影響を懸念したのだろう。その懸念が後退したということだ。

4月のFOMC議事録には、「今後のデータが、4~6月期の景気の反発、労働市場の改善の継続、インフレ率の2%目標への接近などを示すのであれば、ほとんどの参加者は(次回)6月の利上げが適切となる公算が大きいと判断した」との一節があった。

FOMC内のムードは、英国民投票の影響を懸念した6月を経て、再び4月以前の状況に戻りつつあるのではないか。政策金利であるFFレートの先物に基づけば、7月27日時点で年内利上げの確率が45.2%、同据え置きの確率が54.8%織り込まれている。換言すれば、市場のメインシナリオは「年内は据え置き」ということだ。年内の利上げがやや過小に見積もられているように思われる。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

※写真は本文と関係ありません