東北大学は7月27日、通常の状態では磁化を持たない金属が、熱を流すだけで磁石の性質を示す現象を発見したと発表した。

同成果は、東北大学 金属材料研究所 ダジ・ホウ研究員、同大学 原子分子材料科学高等研究機構/金属材料研究所 齊藤英治教授らの研究グループによるもので、7月26日付の英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

近年、熱非平衡状態における電子スピンの役割が大きな注目を集めている。齊藤教授らは2008年に、磁石ではない金属の薄膜を積んだ磁性体中に温度勾配を作ると、磁性体中をスピン角運動量の流れ(スピン流)が伝わり、隣り合う金属へ流れ込み、逆スピンホール効果によって電圧に変換されるというスピンゼーベック効果を発見している。この一連の現象は、理論的には熱非平衡状態で生じる磁化(非平衡磁化)が鍵となって起こると考えられているが、非平衡磁化の存在はこれまで実験で確認されたことがなかった。

今回、同研究グループは、絶縁性の磁石であるYIG薄膜上に、金(Au)薄膜を積んだ試料を用意。同試料の表と裏の間に温度勾配を作ることで熱非平衡状態にした。さらに、外部から磁場を加えてYIG薄膜中の磁化を垂直方向に向け、面に沿って金薄膜に電流を流し、電流と直角の方向に付けた電極に生じるホール電圧を測定した結果、温度勾配の大きさに比例したホール電圧が金属膜に生じることを発見した。

このホール電圧は、外部磁場に比例して大きさが変化することから、温度勾配によって金薄膜中に磁化が生じることを示している。したがって、磁石ではない金属中に、温度勾配によって非平衡磁化が生じることを証明したことになる。なお同現象は、磁性体が持つ通常の磁化による異常ホール効果とは異なり、熱非平衡状態で生じた非平衡磁化によるものとして、「非平衡異常ホール効果」と命名された。

非平衡異常ホール効果は、単位体積あたり1/100万電磁単位という微小な磁化を電気信号として検出できるため、同研究グループは、さまざまな材料における熱非平衡状態での磁化特性を評価および解明する新しい磁化測定法として利用できると説明している。

(a)磁石に接した金(Au)薄膜が温度勾配によって磁石になる様子を表した概念図。(b)温度勾配によって金薄膜に生じた非平衡磁化が金薄膜を流れる電子を曲げる様子を表した概念図(非平衡異常ホール効果)