東北大学などは7月27日、垂直磁化マンガン系合金ナノ薄膜を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子の開発に成功したと発表した。

同成果は、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構の鈴木和也助手、水上成美教授、レザランジバル助手、杉原敦助手(研究当時、現在は産業技術総合研究所研究員)、東京大学 大学院理学系研究科 岡林潤准教授、京都工芸繊維大学 電気電子工学系 三浦良雄准教授、東北大学大学院工学研究科 土浦宏紀准教授らの研究グループによるもので、7月26日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

TMR素子を記憶素子とする不揮発性磁気抵抗メモリ(MRAM)は、磁化(スピン)を記憶の担体とし、原理的には半導体DRAM並みの記憶容量とSRAM並みの高速性能を実現できる。また、情報を保持するための電力が不要であり、情報機器の消費電力を大幅に低減できるため、国内大手メモリメーカーによってメインメモリやキャッシュメモリ用MRAMの製品化が進められている。

一方で、さらなる高性能MRAM開発のため、基盤となる磁性材料の研究も進められている。同研究グループは、垂直磁気異方性が高く、磁気摩擦が低いマンガンおよびガリウム元素を組み合わせた合金に注目し、さまざまなマンガン系合金垂直磁化膜の研究を行ってきた。今回、同研究グループは、規則的に原子が配列したマンガン系合金ナノ薄膜を有するTMR素子を作製する技術を開発した。

特性の優れたマンガンガリウム合金ナノ薄膜の作製には、原子を規則的に配列させるために数百度の高温で薄膜を加熱するプロセスが必要だが、ナノ薄膜に高温加熱プロセスを用いると、下地材料とマンガンガリウム合金ナノ薄膜の間で原子拡散が生じるため、素子作製が困難であった。しかし今回、非磁性コバルトガリウム合金を下地材料として用いることにより、加熱プロセスがなくとも原子が規則的かつ周期的に配列したマンガンガリウム合金ナノ薄膜が作製できることがわかった。

開発された素子は、上部の磁性体層と下部のマンガンガリウム層のスピンの配列に依存したTMR効果を室温で発現することが示されており、また、次世代の超ギガビットSTT-MRAMに対応できる高い垂直磁気異方性を有していることもわかっている。

同研究グループは今回の研究について、さらに高度化することで、ギガビットを超える記憶容量を有するSTT-MRAMの実用化につながると説明している。また、今回明らかとなったマンガンガリウム合金ナノ薄膜TMR素子の作製技術は、その他のマンガン系合金薄膜を用いた素子にも応用可能な技術であると考えられるという。

開発したTMR素子の断面を高分解能の透過型電子顕微鏡で観察した写真。写真中の丸は原子に対応。右図のようにマンガンとガリウムの原子が各々約10原子層程度、周期的に並んでいる