国ごとの教育事情に合わせた開発。海外では学校指定の関数電卓にも

カシオ計算機の電子辞書「EX-word」が発売されてから、20年が経過した。累計販売台数は3,000万台を超えている。これらを記念し、カシオは7月21日にプレス向けのイベントを開催。20年にわたる開発の歴史と、EX-wordの立ち位置を語った。

20周年の歩みとして代表的な機種を展示。記念すべき初号機となるXD-500は、他社との差別化を狙いすぎて不調

ユーザー視点で大幅に改良を重ねたXD-1500。「ジーニアス英和・和英」のステッカーは、「高校生が使っている辞書」をアピール

高校生が使う「英和・和英・国語・漢和・古語」辞書を備え、さらにカラバリも投入したXD-S1200

社会人は「辞書で学習する時間が取れない」ことも多いため、英会話の学習を前面に出した新機軸のEX-word RISE

学生・生徒向けは堅調ということで、小学生向け、中学生向け、高校生向けと、コンテンツとカラーリングを調整したモデルも登場

ピーターラビットの作者、ビアトリクス・ポターの生誕150周年を記念したコラボモデルは、公式オンラインショッピング「e-casio」限定で8月3日から150個限定で販売

EX-wordの歴史ダイジェスト

カシオ計算機 執行役員 CES事業部長の太田伸司氏

はじめに、カシオ計算機 執行役員 CES事業部長の太田伸司氏がスピーチ。

カシオの「CES」は「Consumer & Educational Solution」の略で、前者は実用的な電卓と電子文具、後者は関数電卓と電子辞書が主要なカテゴリーとなる。関数電卓と聞くと地味なイメージがあるのではと前置きし、世界市場でカシオの関数電卓が過半数のシェアを持っている強みは、「国々の生徒、先生、教育機関の声を吸い上げて開発しているから」とした。

一例として、(海外では多い)9月のBack to schoolシーズンに大量の電卓が販売店に並んでいる風景を見せつつ、学校の教材として「fx-○○○○(関数電卓の型番)を用意せよ」と指定されるというエピソードを披露。電子辞書も同じように、国ごとのニーズを吸い上げながら開発している(ただし、カシオの電子辞書は9割が国内向け)。

CESは、ConsumerとEducationを担当する部署。電卓・電子文具、関数電卓・電子辞書が4大カテゴリー

関数電卓もさることながら、電子辞書もカシオがトップシェア。年間30モデル程度を開発しているそうで、現地の教育ニーズを反映した製品を投入している

累計3,000万台の軌跡。1999年で急に伸びたのは、初号機からの改良に期間を要したため。伸びの鈍化は主に社会人向け市場なので、ここに英会話特化型のEX-word RISEを投入する

ここで太田氏、「CES事業に携わって一年で20年の歴史を語るのはおこがましい」ということで、カシオで20年間、電子辞書に携わってきた大島氏にバトンタッチ。大島氏は新事業として「電子辞書」の商品企画を担当してから電子辞書ひとすじという、たたき上げの人物だ。

カシオ計算機 CES事業部の大島淳氏。初代EX-wordのXD-500から電子辞書ひとすじ

まずは「電子辞書が誰に使われているのか?」という調査結果を披露。高校生・大学生の利用が圧倒的に高く、「学生が電子辞書を使う」という傾向が顕著だ。

EX-wordの歴史を振り返ると、初代機のXD-500(1996年)は、他社製品との差別化を意識しすぎたと語る。

ユーザーニーズをつかみ切れておらず、売れ行きが振るわなかった。そこから3年後、全面的に改良した新機種(XD-1500)で出直し、巻き返しを達成。

以降はユーザーニーズと教育現場の声を聞きつつ改良してきた。今後も、紙の辞書ではできないことを続けていくと強調する。

電子辞書を使っているユーザーの多くは高校生と大学生

(ターニングポイントとなった)主な製品の年表

他社と差別化すべく、技術要素を盛り込み過ぎたという初代EX-wordのXD-500

想定よりも売れず、ターゲットとなる高校生を集めたグループインタビューの結果「薄くて軽いのはいいが、キーボードと学校で使っている辞書が必要。読めない発音記号がわかるとうれしい」というフィードバックを得た

再チャレンジとなったXD-1500。キーボードを付け、辞書を見直して、ネイティブの発音も収録した全面改良バージョン。EX-wordの方向性がここで固まった

高校生向けという性格付けを強化するために、学校で使う辞書をすべて盛り込んだXD-S1200。よく見ると辞書のボタンが用意されている

次の課題は、「電子辞書より紙の辞書」と考える先生たちの説得。「きちんとした辞書を収録しており、調べたい時にすぐ調べられる」と地道に伝え続ける

「(耐衝撃ウオッチの)G-SHOCKを作っている会社なのに、電子辞書は壊れる」という声に応え、堅牢設計「タフコット」となったXD-H4100

大学生の第二外国語の要求に応えるべく、コンテンツの追加対応が可能になったXD-LP4600

ペン復活。読めない漢字・中国語・韓国語入力に対応したXD-SW4800

長時間駆動にこだわってきたが、乾電池でも連続100時間駆動に対応したXD-A10000

カラー画面によってわかりやすい表示が可能に。乾電池へのこだわりは、学校で電池切れになっても入手しやすいことと、コンセントの奪い合いにならないという配慮

最新の学生向けモデルは、英語学習の進捗状況を管理できる「English Training Gym」機能が特徴的。画面ではわかりにくいが、キーボードも改良されている

20年の歩みによって、収録コンテンツは大きく増えている。辞書だけでなく、NHKのラジオ講座や英検、TOEIC、TOEFLなども収録

社会人に向けて、新ジャンルとなる英会話学習向けの製品、EX-word RISEを投入

紙の辞書ではできないことを入れつつ、紙の辞書の良いところを残した製品づくりを続ける

20年という節目。今後は「EX-word」と「EX-word RISE」の二本立てで事業を推進する

小学校でのモニター体験を担当教員が語る

ゲストとして、東京都・渋谷区立西原小学校の上林先生が登壇。渋谷区の教育委員会を通じてモニター校として選定され、6年生の1クラス分、EX-wordの提供(XD-SU2800:小学生向けモデル)を受けたという経緯を紹介した。

東京都・渋谷区立西原小学校 教論の上林景一氏。現在は6年生の担当

「授業中でも自由に使っていいよ」としたところ、わからない言葉や気になった言葉を児童たちが自由に調べるようになったそうだ。また、複数の辞書(70コンテンツ)を同じ単語で検索できるため、例えば「英語の辞書に載っていないものが他の辞書に書いてある」と理解できたという(辞書によって内容は異なるが)。

学習効果としては、自主的に調べる習慣が付くことを挙げる。コンテンツとして含まれているNHKの「リトル・チャロ」、オバマ大統領やキング牧師といった演説の動画に日本語字幕が出る点も、英語に対するハードルを下げたり、児童が楽しく学ぶために効果的とのことだ。

また、独立行政法人 国際協力機構(JICA東京)の国際交流会で海外研修生と交流を持ったときに、児童たちがEX-wordで英語の発音を調べたり、英語系のコンテンツを使いながら英語パンフレットを作製したというエピソードも披露した。

児童からの要望として、カメラ機能が欲しい、マルチ画面が欲しい、四字熟語・名言集が欲しい、新聞を読みたい、(小学生モデルには含まれていない)英検の上位コンテンツが欲しいという声を紹介。一方で教師側から見ると、カメラがあること、またネットにつながることに起因する問題が起こらないゆえの安心感がある。現状のEX-word小学生向けモデルでは、「この機能やコンテンツがなくて困る」ということはないそうだ。

渋谷区の教育委員会を通じて、モニターとして一クラス分のEX-word小学生向けモデル(XD-SU2800)が用意された

「授業中でもすぐに調べていいよ」と自由に使わせた結果、わからない言葉、気になった言葉を児童がすぐに調べるように

「現時点では困る機能はない」と手放しの褒めよう