(左から)米代恭と村田沙耶香。

米代恭「あげくの果てのカノン」1巻の発売を記念したトークイベントが、本日7月23日に東京・下北沢の本屋B&Bにて開催。米代と小説家の村田沙耶香が登壇した。

「あげくの果てのカノン」は月刊!スピリッツ(小学館)に連載されているSFラブストーリー。ゼリー(エイリアン)の襲来によって、都市機能を失った東京・永田町を舞台に、ストーカー気質な主人公・高月かのんと、彼女が一方的に思いを寄せる堺先輩を中心に描かれる。イベントの初めには「あげくの果てのカノン」1巻に緊急重版がかかったこと、村田が「コンビニ人間」で第155回芥川賞を受賞したことを祝し、花束贈呈と乾杯が行われた。

作品より米代本人を知ることが先だったという村田は、「あげくの果てのカノン」の1話を読んだときに「ド天才だと思った」と述懐。「堺先輩が(修繕によって)変わっていく姿は、『かのんが一途に思っている堺先輩という人はどこにいるんだろう』という、哲学的な問いかけがあった。本当に面白かったです」と絶賛する。担当の勧めにより「SF」「不倫」というテーマで同作を描き始めたという米代。崇拝的に恋愛をする主人公を描いた理由について「恋愛の始めって、相手を『好き』と思っても、自分の好きなものや萌えポイントがたまたま相手に合致しただけで、幻想を見ている状態だなと感じることがある。それを永遠に追いかけていたいという快楽みたいなものもあるなと思って、そこを掘り進めていった」と語る。

主人公の不倫を描いていることが話題に上がると、村田は「(堺先輩)に奥さんがいることよりも、人間を修繕して戦わせていく状況をみんなが喜んでいることにグロテスクさを感じた。そういう世界でも、かのんは“不倫”という私達の日常にもあることに対して『そんなことをしちゃいけない』『でも先輩が好き』と考えている。かのんが世界のグロテスクさよりも、“不倫”に反応しているところに不思議さを感じています」とコメントする。「もともとそういう物語を描こうと思っていた」という米代は、村田の視点に笑顔を見せた。

また村田は堺先輩の声を録音したり、収集癖のある主人公について「かのんを見ていると、こういう恋愛をした時期があるなって思うんです」と語りだし、「小学生のとき、友達の好きな男の子の隣の席になって、友達に『なんでもいいから盗んで』って言われたんです」と当時を振り返る。「そのときは良心の呵責なく、シャーペンとか文房具を盗んで友達に横流しにしてたんですよ(笑)。でも女子の恋愛ってそういうところがあった気がするんです。好きな人の席に座ったりとか」と続け、担当編集者も「下駄箱で靴のサイズを見たりとか、好きな人の情報を集めたりしてました」と、米代も「確かにそういう時期はありました」と共感。笑いが漏れる会場だが、観客の女性に「その気持ちがわかる人?」と問いかけると、多くの手が上がる場面も見受けられた。

イベントの後半では村田による朗読のコーナーも。小学館より刊行されている女性向けカルチャー雑誌・Maybe!に掲載された、村田の最新作「魔法のからだ」の一部が披露された。同作も含め、肉体的な感覚の描写を重点的に作品を執筆するという村田。それに関し「(『あげくの果てのカノン』の)1巻を読んだ時点では、かのんが堺先輩とセックスしているところが全然想像できない。かのんにそれができるのかもわからない。ずたずたになった先輩の血を舐めている姿だったら想像できるんですけど(笑)」と口にする。米代は「かのんにとって、堺先輩は人間であってほしくない、自分と同じであってほしくないというのが根底にあるから……私も想像できないですね」と頷いた。

また「自分も誰かを『好き』と思うときって、『こうあってほしい』とか自分の中のイメージが先行していて。ちょっとしたことで(相手に対して)『ああ……』って思ったりしちゃうんです」と実体験を述べる。「でもそういうのって人間を見ていないというか、その人に対してあまり誠実になれていないと。そういった意味で、今描写している段階では、かのんも堺先輩に誠実になれていないんです。だから今後は、そういった部分について向き合っていく話になっていくと思います」と説明した。村田は「今よりどんどん深いところに踏み込んでいく行為ですよね。読んでいくのが楽しみです」と米代へエールを送った。