物質・材料研究機構(NIMS)は7月14日、従来法とはまったく異なる質量分析法「流体熱力学質量分析(Aero-Thermo-Dynamic Mass Analysis:AMA)」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、NIMS 若手国際研究センター 柴弘太ICYS-MANA研究員と、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 ナノメカニカルセンサグループ 吉川元起グループリーダーらの研究グループによるもので、7月14日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

質量分析は、物質の分子量を調べる手法。ガスクロマトグラフィなどと組み合わせることでさまざまな試料の種類や構造を同定することができ、食品、環境、医療、農業、化粧品、犯罪捜査など多くの分野で利用されている。

同研究グループは今回、従来の質量分析器とはまったく異なる原理を発見。同原理に基づいて、真空やイオン化を用いることなく、気体の分子量を大気中でリアルタイムに直接測定することができる質量分析法を開発した。

同原理は、気体分子が片方を固定された構造物に当たるとき、気体分子の重さに応じて構造物のたわみ方が異なるというもの。マイクロカンチレバー(MCL、髪の毛ほどの大きさの片持ち梁)に、常温・常圧下でヘリウム、窒素、空気、アルゴン、二酸化炭素といった気体試料を一定流量で吹きかけ、その際に生じる機械的なたわみが特有の値となることが実験によって確認されている。

さらに同研究グループは、流体力学・熱力学・構造力学を組み合わせることによって、気体の分子量とMCLのたわみとの関係を表す式を導き出すことに成功。実験により得られる変形量と、有限要素解析によるシミュレーションから導かれる値、および今回の研究で定式化に成功した解析解から算出される値を比較し、これらがよく一致することを確認している。

同研究グループは今後、携帯可能な小型質量分析デバイスを作製し、健康管理、環境モニタリング、防災など一般社会への応用のほか、ガスクロマトグラフィとの融合や、工場でのプロセス管理など、産業界への展開も推進していくとしている。

A:有限要素解析によるシミュレーション結果。MCLに対して下方向から気体試料を吹きかけている B:さまざまな気体試料の分子量とMCLのたわみの関係。灰色の破線で示す解析解と赤丸の実験値、青丸のシミュレーション値がよく一致している