2016年7月8日、米労働省が発表した6月の雇用統計は、(1)非農業部門雇用者数が前月比28.7万人増(予想18.0万人増)、(2)失業率が4.9%(同4.8%)、(3)平均時給が前月比0.1%増(同0.2%増)、前年比で2.6%増(同2.7%増)の25.61ドルという結果であった。

(1)非農業部門雇用者数の28.7万人増は昨年10月以来の増加幅であり、前回(5月分)の雇用統計を受けて広がっていた米国景気の減速懸念をひとまず払拭する高い伸びであった。もっとも、2010年9月以来の低い伸び(3.8万人増)にとどまっていた前月分が1.1万人増へと下方修正された事もあって、3ヶ月平均の雇用者数は14.7万人増に落ち着いている。

(2)失業率については、2007年11月以来の低水準であった5月から0.2%上昇しており、0.1%の上昇を見込んでいた市場の想定を上回る悪化となった。ただし、労働参加率が前月の62.6%から62.7%に上昇しており、労働力人口の増加が失業率を押し上げたと見られる事から特に問題視すべきものではないだろう。

米非農業部門雇用者数と失業率

(3)平均時給は前月の25.59ドルから増加したとはいえ、伸び率は前月比と前年比ともに市場予想に届かなかった。賃金上昇のペースは依然として緩やかであり、人手不足による賃金上昇圧力が急速に高まる様子は感じられない。米国のインフレ率が急激に上昇するリスクは低いとの見方を強める結果と言えそうだ。

米国平均時給

市場は今回の米6月雇用統計に対して、米国株(NYダウ平均)が大幅に上昇、米長期金利(10年債利回り)は小幅に低下、ドル(ドルインデックス)は小幅に上昇と、各市場がまちまちの反応を見せた。米株式市場は、非農業部門雇用者数の伸びによって米景気の減速懸念が後退しつつも、平均時給の伸び鈍化などを背景に利上げ観測が高まらなかった点を好感したと見られる。一方で為替市場や債券市場は、これらについて決め手を欠いたと判断した模様だ。

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya