埼玉大学は6月21日、人が近づくことができない薬品中や高温・低温、放射線などにさらされた環境における駆動が期待でき、人のような柔らかさを持ったアクチュエータ(ロボット用駆動源)を開発したと発表した。同成果は、埼玉大学大学院理工学研究科 山口大介助教らの研究グループによるもの。

従来の柔らかなロボットの多くは、ゴムやプラスチック製の外装やソフトアクチュエータ(ゴムで空気室・バルーンを形成した空圧・水圧駆動のアクチュエータ)を使用しており、耐環境特性が低いため、使用環境が限られていた。

また、優れた耐環境特性を持つものとして、ポリイミドフィルムが知られているが、貼り合わせなどを行う際に接着層が必要であり、この接着層が温度変化や薬品、紫外線の影響を受けて劣化・破損するため、結果としてポリイミドフィルムが使用可能な環境には限界があった。

そこで今回、同研究グループは、ポリイミドフィルム同士の貼り合わせについて、専用の装置を開発することで接着層なしでの溶着に成功。さらに、開発した溶着技術を応用し、高い耐環境特性を有するソフトアクチュエータの製作を行った。

同アクチュエータはポリイミドフィルム製の空気室のみで構成されており、ガスの出し入れによって人の指のような曲げ動作を行う。

ポリイミドの持つ優れた耐環境特性を有することから,-269℃~300℃の温度環境、薬品中、放射線による汚染環境等における駆動が期待できる。実際に、液体窒素温度付近(-196℃)における駆動に成功しており、液体窒素温度環境においても人のような柔らかな動きを実現している。

同研究グループは、今回開発したアクチュエータを応用することによって、たとえば凍結保存された細胞・臓器といった壊れやすい対象を操作するマニピュレータや、事故や災害発生直後の人が立ち入って良いか不明な環境における安全確認・サンプル採取を目的としたロボット等の開発が期待されると説明している。

今回開発されたアクチュエータ