東京医科歯科大学(TMDU)は6月21日、哺乳動物の組織や器官に出現する異常な細胞を排除する現象の新たな仕組みの解明に成功したと発表した。

同成果は、東京医科歯科大学難治疾患研究所 仁科博史教授、同大学大学院医歯総合研究科 小川佳宏教授、神戸大学医学系研究科 鈴木聡教授、北海道大学遺伝子病制御研究所 藤田恭之教授らの研究グループによるもので、6月21日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

細胞の社会においては、異なる性質を持った細胞間が生存を賭けて争う「細胞競合」と呼ばれる現象が生じることが知られている。細胞競合は、個体発生における組織構築過程、優良な幹細胞の選別、前がん細胞の排除やがん細胞による正常細胞の排除など、多様な生命過程に関わっていると考えられているが、その分子機構についてはほとんど明らかになっていない。

今回、同研究チームは、器官サイズを制御しているYAP分子に着目し、哺乳動物の細胞競合を観察できる培養細胞の実験系を確立。この結果、活性化YAP細胞は、正常な細胞社会から排除されることを見出した。

さらに、排除の過程には、YAP依存性の遺伝子発現が必要であること、アクチン骨格系の変化が必要であること、代謝に関与するPI3KやmTOR、S6Kなどの分子が重要な働きをすることが判明。また、隣接する正常細胞内のフィラミンやビメンチンが関与すること、正常細胞内の情報伝達分子であるRasやSrcが活性化されると、同細胞排除現象は抑制されることが示された。したがって、YAP活性化異常細胞が排除されるか否かは、隣接する正常細胞の状態に依存するといえる。

同研究グループは、今回の成果について、初期段階で異常細胞を排除するという新規のがん予防法の開発に貢献する可能性を示していると説明している。

YAP活性化異常細胞が隣接する正常細胞から排除される機構