米国の宇宙開発企業スペースXは5月28日(日本時間)、タイ王国の通信衛星「タイコム8」を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。また前回に続いて、第1段機体の船への着地にも成功。これで同ロケットの着地成功は通算4回目、洋上の船への着地は3連続成功となった。

タイコム8を載せたファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

着地に成功した第1段機体 (C) SpaceX

ロケットは日本時間5月28日6時39分(米東部夏時間5月27日17時39分)、米国フロリダ州にあるケイプ・カナヴェラル空軍ステーションの第40発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、2分39秒後に第1段と第2段を分離した。

第1段はその後降下して大気圏に再突入し、発射台から約680km離れた大西洋上に浮かぶドローン船「もちろんいまもきみを愛している」号に着地した。一方、第2段も順調に飛行を続け、打ち上げから約32分後にタイコム8を分離し、計画通りの軌道に投入した。

タイコム8

タイコム8は、タイ王国の衛星通信会社タイコムが運用する通信衛星で、南アジアや東南アジアなどに対して通信サービスを提供する。

衛星の製造は、米国のオービタルATKが担当した。また最終的に静止軌道へ入るためのスラスタには、IHIエアロスペースが製造した「BT-4」を使用している。打ち上げ時の質量は約3トンで、東経78.5度の赤道上空3万5800kmの静止軌道で運用される。設計寿命は15年が予定されている。

ロケットからの分離後、衛星からの信号が無事届き、状態が正常であることが確認されている。現在は高度約250 x 9万1000kmのスーパーシンクロナス・トランスファー軌道[注1]に乗っており、このあとBT-4を使って静止軌道へ乗り移る予定となっている。

タイコム8 (C) Orbital ATK

通算4回目、難しい条件では2回目の回収成功

スペースXはロケットの低コスト化を目指し、一度打ち上げたロケットを回収し、再び打ち上げに使うための開発や試験を数年前から続けている。昨年末にはロケットを発射場に程近い陸上に、また今年4月9日と5月6日には洋上の船への着陸に成功しており、今回で着地は4回目、船へは3回連続での成功となった。

打ち上げられたロケットを発射台まで戻すためには、エンジンを噴射してUターンし、それまで飛んできたコースを引き返す必要があり、その分推進剤に多くの余裕が必要となる。しかし、飛行コースの真下にある洋上の船に降ろせるようになれば、Uターンの必要がなくなり、衛星の質量や打ち上げる軌道の都合で余裕が少ない場合でも機体を回収できるようになるため、再使用の頻度を上げることができる。

通常、ファルコン9が陸上、もしくは船上に着地する際には、水平方向の速度を落とすため(あるいは発射場まで戻るようにUターンするため)の「ブーストバック噴射」、大気圏再突入時の速度を抑えるための「再突入噴射」、最終的に着陸するための「着陸噴射」の、大きく3回のエンジン噴射を行う。しかし、前回と今回の打ち上げは、重い衛星を遠くまで飛ばすミッションだったため余裕が少ないことから、このうちブーストバック噴射を実施しない方法が採られた。

この場合、通常よりも速い速度で大気圏に再突入するため制御が難しく、また大気から受ける熱、圧力も大きくなるため、着地のための条件は難しくなる。以前、この難しい条件で着地が試みられた際には、ロケットを制御し切れずに失敗に終わった。

しかし、5月6日には、着陸噴射を通常1基のエンジンで噴射するところを3基のエンジンで行って一気に降下速度を落とすという、これまでにない新しい方法を使い着地に成功。そして今回も、前回とほぼ同じ難しい条件ながら再び着地に成功した。また詳細は不明だが、同社のイーロン・マスクCEOによると、今回から「クラッシュ・コア」という新しい技術も取り入れられたという。

ファルコン9の打ち上げは今年5機目となった。また来月中旬にも別の衛星の打ち上げを予定しており、さらにスペースXは「今後、2~3週間おきにファルコン9を打ち上げると共に、回収試験も続け、さらにそのうちの何機かでは回収した機体を再使用したい」という見通しも明らかにしている。

ドローン船「もちろんいまもきみを愛している」号 (C) SpaceX

エンジンを噴射しながら大気圏に再突入するファルコン9の第1段 (C) SpaceX

【脚注】

注1: スーパーシンクロナス・トランスファー軌道とは、衛星がロケットから分離した後、最終的な目的地である静止軌道まで行くのに必要なエネルギーを小さくするための方法のひとつである。

通常の静止トランスファー軌道は遠地点高度が静止軌道と同じ約3万5800kmだが、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道では6万kmや10万kmといった高い軌道に衛星を乗せる。

すると、遠地点で衛星がもつ運動エネルギーの多くが位置エネルギーに変換されるため、軌道の傾き(軌道傾斜角)の変更が、通常の静止トランスファー軌道からおこなうよりも少ない燃料でできるようになる。最終的に遠地点高度を静止軌道と同じ高さまで下げる必要はあるものの、トータルで見ると燃料の消費量は少なく済む。ただし、この方法はロケット側の負担が大きくなるため、その分打ち上げ能力が落ちてしまうという代償を伴う。また、衛星の高度が非常に高くなることで、ロケットや衛星の追跡や通信が難しくなり、運用が大変という問題もあり、万能な解決策ではない。

静止軌道の真下にあたる赤道近くから打ち上げる場合には意味はないが、米国やロシアなど、緯度の高い地域から打ち上げられるロケットは、スーパーシンクロナス・トランスファー軌道への打ち上げをたびたび行っている。

【参考】

・http://www.spacex.com/sites/spacex/files/spacex_thaicom_8_press_kit.pdf
・https://www.orbitalatk.com/space-systems/commercial-satellites/communications-satellites/docs/FS014_13_OA_3862%20Thaicom%208.pdf
・THAICOM 8 | SpaceX
 http://www.spacex.com/webcast
・SpaceX logs successful late afternoon launch for Thaicom - Spaceflight Now
 http://spaceflightnow.com/2016/05/27/spacex-logs-successful-late-afternoon-launch-for-thaicom/
・SpaceX Masters third Rocket Landing at Sea, delivers Thai Communications Satellite to Orbit - Spaceflight101
 http://spaceflight101.com/thaicom-8-space-x-launch-success/