大阪大学(阪大)と東北大学(東北大)は5月19日、自由に動き回る小型動物を自動追跡し、光で神経活動を測定・刺激するロボット顕微鏡「オーサカベン」を開発したと発表した。

同成果は、大阪大学大学院 理学研究科 木村幸太郎准教授、東北大学大学院 情報科学研究科 橋本浩一教授らの研究グループによるもので、5月19日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

「オーサカベン(Optogenetic Stimulation Associated with Calcium imaging for Behaving Nematode: OSACaBeN)」と名付けられた同ロボット顕微鏡では、水平面上を自由に移動する生物を1/200秒単位で自動追跡しながら、複数の神経活動を蛍光によって測定し、また複数の神経活動をプロジェクションマッピングによって一つひとつ「狙い撃ち」で刺激することができる。

今回、同研究グループは、線虫 C.エレガンスのドーパミン細胞に注目。ドーパミン細胞は、C.エレガンスの餌である大腸菌の層の中に移動したときに受ける物理的な圧力によって活動し、餌の存在に適した神経活動を引き起こすと考えられているが、そうしたわずかな圧力を本当に感じることができるのか、C.エレガンスに4カ所存在するドーパミン細胞がすべて同じ役割を果たしているか否かは不明であった。

そこで、同研究グループは、同ロボット顕微鏡でC.エレガンスのドーパミン細胞の神経活動を計測。頭部背側の1カ所(CEPD)のドーパミン細胞だけが餌に対して強く持続的に応答することを見出した。さらに、この細胞だけをプロジェクションマッピングを用いた狙い撃ちによって人工的に刺激することで、餌の層に移動したときと同じ行動変化を引き起こすことができた。

C.エレガンスのドーパミン細胞は、高等動物と類似した遺伝子プログラムによってドーパミンを合成するための性質を獲得することが知られており、特に、頭部背側と頭部腹側のドーパミン細胞は構造的にも非常によく似ていることから、このような応答性および行動変化への影響の違いは、予想されていなかったという。

同研究グループは、C.エレガンスを用いることで、ドーパミン細胞がいくつかの機能的グループに分かれる仕組みを明らかにすることが期待できるのに加え、同ロボット顕微鏡はC.エレガンス以外の小型動物にも用いることができるため、今後、さまざまな角度から、「脳活動と行動の関係」を明らかにすることが期待できると説明している。

ロボット顕微鏡「オーサカベン」の模式図。線虫頭部は、顕微鏡下からの赤外光で画像化される。この画像は1秒間に200回撮影され、毎回高速の画像認識が行われて、C.エレガンス頭部の同じ場所をレンズ中央に維持するように電動ステージの位置を制御しつづける。同時に、ドーパミン細胞では、位置確認のための赤色蛍光タンパク質と、光によって細胞を活動化させるタンパク質が遺伝子から読み出されている。この赤色蛍光タンパク質の位置を別のプログラムが認識し、液晶プロジェクタからその位置に対して細胞活動化のための青色光を照射する