消費税率引き上げ再延期か

2017年4月に予定されている10%への消費税率引き上げについて安倍首相は「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならない限り予定通り引き上げていく」と繰り返している。2014年11月に、翌年10月に予定されていた10%への引き上げを断念するとともに一年半の先送りを決めた経緯があるため、再度の延期には慎重な姿勢を見せているようだ。

しかし、その一方で日本政府主催の国際金融分析会合に講師として招いたスティグリッツ米コロンビア大教授やクルーグマン米プリンストン大名誉教授ら著名経済学者は、首相に増税見送りを提言。首相の経済ブレーンである浜田宏一氏と本田悦郎氏の両内閣官房参与も増税は見送るべきとの立場を鮮明にしている。したがって、首相の内心はその発言とは裏腹に増税見送りに傾いており、5月中には再延期を発表するとの見方が少なくない。

消費増税に「反対」が64.4%

そうした中、外為どっとコム総合研究所は月例のアンケート調査の特別質問として「2017年4月から予定通り消費増税が実施された場合、為替相場へはどのような影響があると思われますか? また、その理由をお書きください」と個人投資家に問いかけてみた。さらに「2017年4月の消費増税について、賛成か反対かをお伺いします」とも尋ねてみた(実施期間は4月12日~19日)。

予定通り増税した場合の為替相場への影響については、「円安」と答えた割合が19%、「円高」が39.3%、「影響なし」が15.2%となり(「わからない」が26.5%)、どちらかといえば増税実施を円高要因として捉えている向きが多い事がわかった。

また、それぞれの理由についての記述は非常に興味深いものであった。「円安」と答えた向きからは「日本の景気が悪化するため円安要因になる」との趣旨の回答が目立った一方、「円高」とした向きからは「景気悪化は避けられず、株安・円高につながる」との趣旨の回答が多かった。為替相場への影響という点では見方が違っても、消費増税が景気悪化要因になるとの見方は共通していた事になる。

「消費増税の為替相場への影響」

その結果、「消費増税の賛否」については「賛成」が22.6%にとどまり、「反対」が64.4%に達した。なお、消費税が5%から8%に引き上げられる直前の2013年9月に同様の調査を行った際は「賛成」が36.9%、反対は45.5%であった。今回は当時と比べても「増税反対」の意見が増加した事になる。

「消費増税の可否」

少子高齢化により増加が見込まれる社会保障費の財源を確保するためにも消費増税は避けられないとする主張は傾聴に値する。しかしながら、足元でもたつく景気回復を増税でさらに不安定化させてしまっては元も子もない。経済再生を最優先課題としている安倍首相が、景気先行きへの不安がくすぶる中で増税に踏み切る可能性は低いと読むのが自然に思える。7月の参院選を前に、世論が「増税反対」に傾く中ではなおさらだろう。

ただし、今回もし増税を見送ったとしても円安の持続性については不透明と言わざるを得ないだろう。前回、安倍首相が増税先送りを決めた2014年11月のドル/円相場を振り返ってみると、各メディアが首相の意向を報じたのが11日であり、そこから12月8日までの約1カ月間で114円台から121円台へと大きく円安(ドル高)が進んだ。もっとも、当時は10月31日の日銀異次元緩和第2弾(バズーカ2)を受けて円売りが活発化していた時期でもある。増税見送りだけでは、とても7円もの円安を示現できたとは思えない。今回も、増税見送りとなれば一時的に円安に振れる可能性はあるが、日銀バズーカの援護射撃なくしては持続力を欠くと見ておきたい。その意味からも4月28日の日銀金融政策決定会合が注目される。

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya