National Instruments(NI)は今年、設立40週年を迎えた。また、同社の計測ソリューション「LabVIEW」も発表後30周年ということで、2016年はNIにとってまさしく節目の年といえる。

そんな節目の年に同社の創設メンバーであり、現在は社長兼CEOを務めるDr. James Truchard(Dr. Truchard)が来日。文字通りNIの生き字引きである同氏はこれまでの歩みを振り返りつつNIの今後の方向性について語った。

NIの社長兼CEO Dr. James Truchard

これまでの40年とこれからの10年

Dr. Truchardはまず、これまでのNIの歴史を10年ずつ4つの時代に分けて説明。最初の10年については「設立から最初の10年間はGPIBインターフェースボードの販売をメインとしていた。このビジネスを通じてコンピューターと計測機器の中間に入ることが出来た」と語り、この経験を通じてデータがどう扱われているのかという点に着眼したことが、2期目において計測機器用のソフトウェアにつながったとした。2期目で始まったソフトウェアベースの考え方をベースに、3期目ではハードウェア側においてソフトウェアで実現できることを拡充していった。4期目については、試験・計測および工業用プラットフォームベースのデザインを可能とした10年だったとした。

このように見ると、NIは2期目以来、ソフトウェアをベースとした計測・試験ソリューションを拡充し続けることで今日の姿まで成長を遂げたことがわかる。この流れを踏まえた上で、これからの10年、つまり5期目はプラットフォームのさらなる拡充を図り、エコシステムの構築を進めていくという。Dr. Truchardが見据える計測業界におけるプラットフォーム、そしてその成長のカギとなるエコシステムとはどのようなものなのだろうか。

NIのこれまでの40年を10年ごとに区切ると、戦略はこのように変化してきた。これからの10年は"プラットフォームとエコシステム"を戦略の中心に据える (資料提供:National Instruments)

計測業界におけるプラットフォームアプローチとは?

Dr. Truchardはプラットフォームとしての「LabVIEW」をAppleのiPhoneに喩えて説明する。iPhoneユーザーはiTunesからさまざまなアプリをダウンロードして使用することができる。多種多様なアプリにiPhoneという1つのデバイスで対応できるのは各アプリがiOSというプラットフォーム上で動作することを前提としているためだ。ちなみに、Dr. Truchard自身は、自分のiPhoneにバグバイプチューナーアプリをダウンロードして使用しているという。iOSによってiPhoneはさまざまなニーズに対応可能となり、陳腐化を防ぎ、価値を高め続けることができるというわけだ。

iTunesで提供されている多種多様なアプリは、iOSというプラットフォーム上で動作するため、異なるデバイスでも使用することができる (資料提供:National Instruments)

ソフトウェアがハードウェアの価値を定義する状況は、自動車でも発生している。「テレマティス、インフォテインメントシステム、自動運転システムなどハードウェアの拡張性はソフトウェアが担っている」(同氏)。これらの機能にはさまざまな技術が詰め込まれている。例えば自動運転では、センサーやカメラなどで画像を取得し、その情報を処理した上で車両を制御する必要がある。こうした技術統合は、半導体技術の進化――いわゆる「ムーアの法則」によって実現してきたものだ。「ムーアの法則」についてはそろそろ限界ではないかと見る人もいるが、Dr. Truchardは「もうしばらく限界は先だと見ている」とのことで、同氏の見解に従えば今後も新機能の開発または既存機能の向上のために技術統合がどんどん行われていくことになる。

ただ、さまざな技術が統合された機能を実用化するためにはそれらの試験を行う必要がある。こうした時に求められるのが、さまざまな要素に対して統合的に対応できる計測プラットフォームというわけだ。

NIの計測ソリューションの中でプラットフォームに位置づけられるのが「LabVIEW」だ。iTunesでダウンロードしたアプリがiPhone、iPad、iPodなど複数のデバイスで使用できるように、LabVIEWがiOSのように間に入ることで、さまざまな計測アプリケーションに対するハードウェア選択に幅を持たせることができる。

例えば、同社が取り組んでいる5Gの開発においてもLabVIEWをプラットフォームとすることで、さまざまな機器に対してニーズに応じたアプリケーションを提供することができる (資料提供:National Instruments)

プラットフォームを機能させるためには豊富なアプリケーションを揃える必要がある。そのためにDr. Truchardが重要視するのがユーザーコミュニティやパートナー企業を巻き込んだエコシステムの構築だ。「ユーザーコミュニティはサポートにも非常に有効だ。(最近では)機器に何か問題や疑問が合った場合、メーカーに問い合わせるだけでなく、まずは友人に解決策を知らないか聞いたりする。ユーザーコミュニティはその延長だ。」(Dr. Truchard)

一方、NIあるいはLabVIEWのケーパビリティを拡張するのがパートナー企業だ。パートナー企業が充実していればアプリの種類も増えるし、手厚いサポートを提供することができる。また、NI単体ではカバーしきれないテレマティクスや組み込み分野にも対応可能となる。ちなみに、パートナー企業の強化については4月1日付けで日本NIの代表取締役に就任したコラーナ マンディップ シング氏も就任会見で言及しており、エンジニアなどの技術力向上につながるトレーニングを実施していくとしている。(関連記事:成長はNIのDNAの一部 - 日本NIの新代表が語ったこれからの戦略)

Dr. Truchardが語ってくれた計測アプリケーションのプラットフォームアプローチは自動運転をはじめとするIoT技術に取り組む日本企業にとっても見逃すことのできないものだ。最後に、日本の企業に向けたメッセージをお願いしたところDr. Truchardは、「技術の統合が進む中で、特に自動車業界では画像、無線情報、テレマティクス、電機・電子データを統合して同時にテストしなければならない。そのためにはプラットフォームが必要となってくる。」とコメントし、改めてこれからの技術開発におけるLabVIEWプラットフォームの重要性を強調した。