慶應義塾大学(慶大)は4月5日、米国で開発された心臓カテーテル治療後の腎機能障害をカルテ上の患者情報から予測する「統計的リスクモデル」を用いることで、日本人においても高い精度でその発症を予測することができることを明らかにしたと発表した。

同成果は、慶應義塾大学医学部循環器内科学教室 猪原拓助教と福田恵一教授らの研究グループによるもので、4月4日日付の米科学誌「Journal of American College of Cardiology」に掲載された。

心臓に血液を運ぶ冠動脈で動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞といった重篤な疾患に至る。その治療にあたってはカテーテルが重要な役割を担っており、日本国内800以上の施設で、年間20万件以上の心臓カテーテル治療が実施されている。

しかし、心臓カテーテル治療の合併症として、約10%の患者に腎機能障害が発生するという問題もある。その原因は、主にカテーテル治療の際に使用される造影剤が腎臓に集積するためとされているが、根本的な治療法は存在しない。またその発症を予測することは難しく、経験のある医師でも困難だという。

米国では、全国規模のデータベース「National Cardiovascualar DatabaseRegistry;NCDR」を用いて複数の臨床的な患者情報からその発症を高い精度で予測する「リスクモデル」が開発されてきたが、この「リスクモデル」がほかの国や地域でも高い精度で機能するかに関しては、これまで検証されていなかった。

今回、同研究グループは、慶應義塾大学病院およびその関連15施設で心臓カテーテル治療を施行した合計約1万1000名の手術情報を用いることで、米国で開発された「リスクモデル」が、日本人でどの程度正確に腎機能障害の発症を予測できるか検証を行った。この結果、米国で開発された「リスクモデル」は、閾値の変更など適切な統計的補正作業を行えば、日本人においても高い精度で心臓カテーテル治療後の腎臓機能障害の発症を予測できることが証明された。

これにより、心臓カテーテル治療の前にこの「リスクモデル」を用いることで、腎機能障害を発症する危険性が高い集団を正確に同定することができ、事前に十分な予防策を講じることができるようになる。さらに、「リスクモデル」から推定される危険率をインフォームドコンセントの場で患者に説明することで、各個人によって異なる腎機能障害発症の危険性を具体的な確率として提示でき、手術を受けるか否かの判断材料として役立つものと考えられるという。

同研究グループは、今後はこの「リスクモデル」を活用することで、どの程度腎機能障害の発症を低減させることができるかに関して検証を行っていく予定であるとしている。