北海道大学(北大)と国立極地研究所(極地研)は3月17日、海洋の潮汐と連動して発生する氷河地震をグリーンランドで初めて発見したと発表した。

同成果は、北海道大学低温科学研究所、同大北極域研究センター、国立極地研究所、スイス連邦工科大学、フィレンツェ大学の共同研究グループによるもので、3月8日付けの米科学誌「Geophysical Research Letters」オンライン版に掲載された。

グリーンランドは、その面積の80%が平均厚さ1700mの氷で覆われており、地球に存在する氷河・氷床の10パーセントにあたる氷を蓄えているといわれている。近年この氷床が急激に縮小して融解水の流出が増え、海水準の上昇に寄与しているほか、海洋循環や海洋生態系など、地球規模の環境への影響が懸念されているが、氷が崩壊する氷河の末端部や、氷山と海氷に覆われる海の観測は非常に困難で、なぜ氷河が急速に氷を失っているのか理解は進んでいない。

同研究グループは、グリーンランド北西部、北緯77度に位置するカナック村を拠点として過去5年間にわたって総合的な研究活動を行っている。今回の研究では、同村から20m北に位置するボードイン氷河の海洋との境界から250mまで近づいて、地震波観測、GPSによる流動測定、潮汐や気象観測など集中的な観測活動を実施した。

この結果、氷河の動きに起因する氷河地震の頻度が半日周期で変動していること、氷河地震が引き潮に連動して増加すること、潮汐によって氷河の流動が変化することで、氷河地震の原因である氷の破壊が促進されていることを発見した。つまり、氷河の加速によって生じる氷の破壊が氷河地震の原因であり、潮汐が氷河の流動を介して間接的に氷河地震の頻度をコントロールしていると考えられる。ボードイン氷河付近での潮汐による海水面変動は1~2m程度であるため、こういった海洋や氷河のわずかな変化が海と氷の微妙なバランスを崩し、より大きな変動を駆動する可能性があることが示されたといえる。

同研究グループによると、今回得られた知見は、グリーンランド氷床だけでなく、世界最大の氷を抱える南極氷床や、近年大きな変動を示しているパタゴニアの氷河の変動理解に役立つとしており、今後はボードイン氷河での研究を継続するとともに、南極やパタゴニアでの氷河・氷床研究に展開していく計画であるとしている。

ボードイン氷河末端部での氷河地震発生メカニズムのイメージ。引き潮で海水位が下がると氷河が加速し、引っ張られた氷の破壊によって氷河地震が増加する