科学技術振興機構(JST)は3月15日、富山大学 大学院医学薬学研究部(医学) 免疫バイオ・創薬探索研究講座(富山県寄附講座)の渡邉康春客員助教らの研究グループが漢方薬に含まれる生薬甘草の成分「イソリクイリチゲニン」(ILG)が脂肪細胞などに作用し、内臓脂肪の炎症および線維化を抑制することを発見したと発表した。その作用機序も解明しているため、今後のILGを活用した新たなメタボリックシンドローム治療薬の開発にも期待が持てるという。

マウス脂肪細胞株とマウスマクロファージ細胞株を24時間共培養することにより、TNF-αやMCP-1などの炎症性物質が産生される

同研究は、富山県および県内外の13社の製薬企業やJSTなどの支援を受けて実施された。

近年は食生活の欧米化が進むなど、日本でも肥満を中心とするメタボリックシンドロームが増加している。食前に野菜ジュースを飲むと発症の原因の一つとされる「食後の血糖値上昇」が抑制できるなど、今までにメタボリックシンドロームに関するさまざまな研究が報告されている。

これまでの研究において、メタボリックシンドロームの発症には内臓脂肪における慢性的な炎症反応が深く関与することが判明している。内臓脂肪は、余剰エネルギーを中性脂肪として蓄える脂肪細胞から構成されているが、内臓脂肪には免疫細胞も存在。正常な場合、免疫細胞が脂肪細胞の恒常性を保ち、炎症を抑制していることも明らかになっているという。

一方で、肥満化が進むとマクロファージなどの炎症細胞が内臓脂肪に集まり、脂肪細胞との相互作用で慢性的な炎症反応が生じる。また、マクロファージは内臓脂肪の「線維化」(組織が傷ついた際に治癒のために結合織が増殖する生体反応。過剰な結合織の増殖は正常の組織を破壊し、臓器不全を起こす)を引きおこし、脂肪細胞の機能を妨げることもわかっているとのこと。このような内臓脂肪の慢性炎症と線維化が引き金となって、全身性のインスリン抵抗性が生じ、糖尿病の発症リスクが高まるとされている。

研究グループは、これまでに生薬である甘草に含まれるILGがマクロファージにおいて、炎症の鍵分子となる「NLRP3インフラマソーム」と呼ばれる細胞内たんぱく質複合体の活性化を阻害し、マウスのメタボリックシンドロームを改善させることを報告している。ただ、ILGの脂肪細胞への薬理作用や線維化に対する有用性は不明だった。

そこで今回、ILGの効果を検討したところ、ILGはマクロファージから産生される「炎症性サイトカイン」(血液細胞などの増殖や分化を調節するたんぱく質性の生理活性物質の総称)の「TNF-α」や脂肪細胞から産生される「ケモカイン」(細胞の遊走を誘導するサイトカインの総称)の「MCP-1」の発現を抑制することがわかったという。

さらに詳細に検討したところ、ILGはTNF-αによる脂肪細胞の活性化を抑制すると共に、飽和脂肪酸によるマクロファージの活性化も抑制することが明らかになり、抗炎症作用が見いだされたとしている。

次に、内臓脂肪の線維化に対するILGの効果を調べるために、マウスに高脂肪食とILGを与えて、線維化を検討した。高脂肪食を与えたマウスは、普通食を与えたマウスに比べて内臓脂肪の線維化が多く見られた。だが、ILGを混ぜた高脂肪食を与えたマウスでは、高脂肪食による線維化が顕著に抑制されていたとのこと。

マウスに普通食または高脂肪食、ILGを混ぜた高脂肪食を20週間与えた。高脂肪食を与えたマウスの内臓脂肪(中央)では、青色で染まるコラーゲン線維が多く認められ、線維化が起きていた。一方、ILGを混ぜた高脂肪食を与えたマウスの内臓脂肪(右)では、線維化が顕著に抑制されていた

今後の展開について、富山大学とJSTは「ILGの抗炎症作用および抗線維化作用の詳しいメカニズムを調べることで、ILGを基にした、メタボリックシンドローム治療薬の開発につながることが期待されます」としている。

なお、同研究は英国科学誌「Scientific Reports」にてオンライン公開されている。