情報通信研究機構(NICT)、東京大学大学院情報学環、KDDI研究所は3月7日、日立製作所および米ユタ大学の協力を得て、NICTが開発した仮想化Wi-Fiを含めた複数の仮想網で構成される有無線マルチドメイン仮想網の国際実証実験に成功したと発表した。なお、同実験の成功は世界初だという。

有無線マルチドメイン仮想網の国際実証実験

近年、Wi-Fi通信機能を内蔵するスマートグラスや移動型ロボットなどの無線IoTデバイスと、遠隔のクラウドサーバとの常時通信を基本とするサービスの需要が製造業や物流分野で急速に高まっているという。

また、海外拠点のクラウドが利用される事例も増え、国際・国内回線やWi-Fiなどの複数のネットワークを経由した利用が一般的だが、ネットワークごとに特性や運用ポリシーが異なるため、全体として一貫した通信品質を確保することが困難だった。

東京大学大学院情報学環、KDDI研究所らの研究グループは、NICTの「新世代ネットワークを支えるネットワーク仮想化基盤技術の研究開発」の一環として、複数の有線仮想網を共通の品質やポリシーで相互接続する技術などを共同開発。しかし、無線仮想網の相互接続までは実現できていなかった。

一方、NICTはユーザー密集などによりWi-Fiが混雑する環境において、SDN(Software-Defined Network:ソフトウェア定義型ネットワーク)技術に基づき、特定アプリケーションの通信品質を優先的に確保できる仮想化Wi-Fi基地局の開発を進めてきた。

今回、研究グループはクラウドを含む有線仮想網とWi-Fi仮想網を相互接続する技術を新たに開発し、Wi-Fi-インターネット-クラウド間をつなぐ有無線マルチドメイン仮想網を日米間で構築する実証実験に成功した。今回の成果は、通信方式が異なる複数の無線仮想網との相互接続にも応用可能だ。

実験では東京大学、KDDI研究所が中心となって開発した複数の異なるネットワーク仮想化基盤間において、仮想網を相互に接続するための仮想ネットワーク接続機構の「スライスエクスチェンジポイント(SEP)」に、NICTが日立の協力を得て開発したWi-Fi仮想網接続機能を追加することで、SDNによる3つの仮想網の一括制御を実現。

国内からの海外クラウド利用を想定し、国内Wi-Fi仮想網とユタ大学の仮想化基盤のProtoGENI(ユタ大学を中心に開発され、全米に広がるInternet2にバックボーンを持つテストベッドプロジェクト)上に構築されたクラウドを、JGN-X(NICTが整備する新世代ネットワークのためのテストベッド)上で運用される仮想化ノードによる有線仮想網が中継する構成とした。

今回の成果により、IoTサービス向けに異なる事業者からのWi-Fi接続やインターネット回線、クラウドサーバなどを必要な容量で調達し、規模や通信量に見合った専用ネットワークをインターネット上に構築することが可能だという。

また、海外拠点のクラウドを利用したスマートグラス向けサービスや、屋内移動型ロボットの安全な遠隔自動操縦など、製造・物流を中心にWi-Fiとクラウドを利用したIoTサービスへの幅広い応用が期待されているという。