慶應義塾大学 環境情報学部長 村井純氏

慶應義塾大学と日立製作所は2月29日、サイバーセキュリティ分野の共同研究を開始すると発表した。東京都内で開催された記者会見には、両者の関係者が参加した。

初めに、慶應義塾大学 環境情報学部長の村井純氏が、今回の共同研究の狙いについて説明した。同氏はサイバーセキュリティの構造的課題として、「国家を守る政府」と「個人の利益を追求する企業と個人」の2者が分離していることを挙げ、「品質」「信頼」「先端技術」「運用」「人財・教育」といった分野において両者が共同研究を行うことで、国家と企業・個人を結び付けていきたいと述べた。

村井氏は「これまでプロジェクトに取り組んできたなかで、日立製作所は技術によって品質と信頼を作っていると感じている。また、人財・教育において日立の力を借りたい」と、共同研究のパートナーとなる日立に対する信頼感を語った。

共同研究の狙い

日立製作所 執行役常務CTO兼研究開発グループ長 小島啓二氏

一方、日立製作所の執行役常務CTO兼研究開発グループ長を務める小島啓二氏は、慶應義塾大の魅力について、「技術、法制度、社会制度、政策、デザインなどの多岐にわたる研究分野をカバーしているとともに、分野を横断する組織によって取り組むための枠組みを持っている」と説明した。

小島氏は、共同研究のフレームワークとして、「IoTや人工知能といった先端技術の研究開発を行い、その成果を現場で運用することで、ブラッシュアップし、知識として体系化していく」と説明した。さらに、日立としては「共同研究を活用して、セキュアな社会イノベーション事業を世界で展開していきたい」と、同社のビジネスにも積極的に絡めていく意気込みを示した。

今回、慶應義塾大では、2015年に先導研究センターに設立されたサイバーセキュリティ研究センターが中心となって研究に取り組む。サイバーセキュリティ研究センターにおいては、技術・運用・社会制度を含むセキュリティに関する研究を担う。

慶應義塾大学 サイバーセキュリティ研究センター長 大学院メディアデザイン研究科 教授 砂原秀樹氏

サイバーセキュリティ研究センター長 大学院メディアデザイン研究科 教授の砂原秀樹氏が、共同研究のテーマである「SOC(セキュリティオペレーションセンター)」の連携技術について説明した。

昨今、企業や組織でSOCを運用するケースが増えているが、「1つのSOCではインターネットを守りきれない。そこで、SOC間で情報を共有することで、防御のレベルを上げることができるが、SOCは企業・組織情報を抱えているため、SOCの連携は難しい」と砂原氏。

共同研究では、さまざまな利用者がいる複数の大学キャンパス間でのSOCを連携させることで、インシデントへの対応を強化していく。同大学にはさまざまなIoT機器が設置されており、IoT時代のセキュリティ研究のフィールドとしても適しているそうだ。砂原氏によると、最終的には国際標準への採用を視野に入れているという。

共同研究の期間はオリンピックイヤーを越えることを踏まえ、5、6年を想定しており、立ち上がり時は両者から10人程度の人材を投入する。成果としては、論文、政策への提言、カリキュラムの作成といったことが予定されている。

小島氏は共同研究のゴールについて「大きなテーマを掲げるというよりは、日常のすべてにセキュリティを組み込んでいきたい」と述べた。砂原氏も「メディアでは『セキュリティの人材が足りない』と報じているが、そうではない。『セキュリティを理解する人が足りない』と訂正をお願いしたい。インターネットを前提とした社会においてセキュリティを高めるには、いわゆる普通の人に自分の活動の中でセキュリティを理解してもらうことが大切」と、今回の取り組みではITエンジニアに限らず、幅広い層の人を対象としていることをアピールした。

村井氏によると、大学教育においてサイバーセキュリティに関するオペレーションを経験する機会を増やしていくことで人材を育成していく一方、近いうちに、100人規模の社会人に対し、セキュリティの教育に携わることが計画されているという。