足立区が実施する子どもの貧困対策とは?

東京都足立区は、2016年度から母子保健コーディネーターを配置し、子どもの養育環境などを妊娠中から調べる事業を始める。また、リスクの高い世帯の継続的な訪問や、妊産婦の家事代行サービスの支援を新たに始めるなど、子どもの貧困対策に本格的に乗り出す。詳しい話を担当者に聞いた。

児童手当受給者数が20年間で1.8倍に

足立区では、これまでも「治安」「学力」「健康」と並び、「貧困の連鎖」を区の評価に関わる根本的な課題と位置づけてきたという。区の資料によると、同区のひとり親家庭などに支給される児童扶養手当受給者数は、1994年からの20年間で約1.8倍に増加。学用品費や給食費などの援助制度を利用する就学援助率は、国の平均の2.5倍となっており、子どもの貧困対策が急務となっていた。

そこで足立区は、2015年度を「子どもの貧困対策元年」として対策本部を立ち上げ、実施計画「未来へつなぐあだちプロジェクト」を策定。次年度から本格的に実行に移すことになった。

ハイリスク家庭を妊娠中から支援につなげる

このうち母子保健コーディネーターは、貧困や養育困難に陥ったり、児童虐待に至ったりするリスクの高い家庭を早期に把握する目的で新たに設けられた。区は5人のベテラン保健師を専属部署に配置。子どもがうまれる前から家庭環境などについて聞き取り調査を行う。

調査の方法としては、妊娠届出書にパートナーの有無や就労状況、健康保険の加入状況など23項目のアンケートを設けて回答してもらう。回答を点数化して5段階でリスクを評価し、上から3段階までのハイリスクの妊婦を対象に、コーディネーターが家庭を訪問。妊娠期から出産後までの生活に関する個別プランを作成した上で、必要な支援につなげる。

支援の内容には妊娠・出産に関わることのみならず、生活支援や就労支援も含まれている。ワンストップの相談窓口という意味で妊娠期から就学までのさまざまな相談にのり、切れ目ない支援を提供するいま注目の「ネウボラ」に近い。しかし、フィンランド式の「ネウボラ」が施設型なのに対し、足立式は訪問型。区保健予防課は「コーディネーターが家庭にまで入るので、事前に養育環境やパートナーの状況などが把握でき、より適切な支援ができる」としている。

ボランティアの訪問傾聴や家事代行サービスも

さらに、ハイリスクの家庭に対しては、出産後に保健師が家庭訪問する「こんにちは赤ちゃん訪問」を通常の1回から必要に応じて2~3回に拡充。その後もボランティアのサポーターが継続的に訪問して孤立感の解消をはかるなど、切れ目のない支援を目指している。

また、リスクの高低に関わらず妊産婦の家事代行サービスを支援し、家事面から負担軽減をはかる「子育てホームヘルプサービス事業」も新たに始める予定だ。

区によれば、区内の出産件数は年間6,000件ほどで、そのうち3分の1程度がハイリスクと評価される見込み。担当者は「10代での妊娠や、精神疾患を抱えての出産、無保険の人も多く含まれ、広く浅い支援よりハイリスクの人に手厚い支援が求められている」と言う。

こと子どもの貧困対策に関しては”平等な行政サービス”より、早め・ハイリスクの人に力を注ぐことを選んだ足立区。これらの対策が必要な人に届き、助けとなることを願う。

※写真と本文は関係ありません